派手なピンクの表紙、「バカ値からをいつも出す!→」という帯のキャッチコピー、その帯は本(新書版)の2/3サイズの大型。そのどれもが、ふだんだったら購入しない要素にあふれている本なのだが、ただ1つ「ゾーン」というタイトルに惹かれて買った。“ゾーン研究家”を自負している僕(笑)としては買わざるを得ない。
良く眠れたり、ご飯がおいしくなったり、会議で発言ができたり、やさしくなったり、仕事の効率がよくなったり、本番に強くなったり…フローとはそんな状態のことで、フロー状態を選択できればゾーンは必ずやってくる、という。自分自身のパフォーマンスが向上すること、人間関係がよくなること、フローでいること自体、これら3つのことに大きな価値があるという。全体的にサーッと読めるのだが、終盤の以下の部分が引っかかった。
(前略)「揺らぎ」「とらわれ」ていても人は死なないからだ。ノンフローで生きていても、そこそこには生きることができる。(後略)
ノンフロー状態でも充分に生きることができるので、人はその状態からなかなか脱せず、従ってフロー状態に入りにくい、ということなのだと思うが、僕は逆に、フロー状態に入ると死んでしまうかもしれない怖さをもっているから、人はなかなかフロー状態に入りきれないのではないかと、ずっと考えている。
ブラジルのリオ・デ・ジャネイロへ行ったとき、現地の人に「ここの人たちは山の上からの道をスケボー※で降りそのスリルとスピードを楽しむ。スピードが出過ぎて吹っ飛び死ぬ人もいるが、こんなに楽しければ1人2人死んでもしょうがないと、またやり始める」という話を聞いたことがある(※スケボーだったかソリだったかゴーカートのような車だったかハッキリ覚えていないのだが、とにかく滑り降りて来る何かだった)。
あるいは、海の好きな作家に「サーフィンでチューブの中に入り、最高の状態で乗り続けて行って、それで死んでしまう人もいる」と言われたことがある。どちらも最高のフローの状態のすぐ横に、死が隣り合わせであるというイメージが、この2つの話で僕に刷り込まれている。その逆に位置するノンフロー状態は、当然、死から遠いところにある。
フロー状態になること自体は問題ないのだが、フロー状態が続くことへの不安。これは払拭出来るのだろうか?そこのところが、この本を読んでも解決されない、今後に繋がる研究テーマなのである。
(ことしの本棚 第45回 針谷和昌)
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