『エンデの遺言 「根源からお金を問うこと」』(河邑厚徳+グループ現代/講談社プラスα文庫)がずらっと書店に並んでいる。
どうしてだかわからないが並んでいて、さらにどうしてだかわからないがとても気になる。前に読んだことがある筈、うちの書棚に並んでいる筈と思い、帰ってきてから本棚で見つけ、引っ張りだして読んでみた。11年振りに読む本の方は単行本(NHK出版)で、記憶の彼方、初めて読むに等しかった。
それでも思い出してきたのは、「イサカアワー」「LETS」などの『地域通貨』のこと。そうだ、これを読んで僕も地域通貨を作ってみよう、ビーチの近くの町で使えて、草ビーチバレー大会の賞金にもなる「ビーチ」という地域通貨を湘南で作ってみよう、なんてひとり盛り上がったことを思い出した。あるいは著者のエンデに、とあるシンポジウムに出てもらいたくて、手紙を書いた記憶も蘇って来た。
この本には当時話題となっていた「環境ホルモン」なんていう単語が出て来て、もはや聞かなくなったこの言葉と同じ運命を、「ダイオキシン」という言葉や、もしかしたら「地球温暖化」という言葉もたどるのではないかなんて考える。そうやって考えがいろんな方向へ飛んでいくこの本は、かなり良い本なんだと思う。実際、ためになることがたくさん書いてある。
「実のところ、ヘッジファンドが享受してきたあまりに高い利益の源泉は、世界に存在するありとあらゆる種類の『格差』である。
規制格差、為替格差(実体経済と為替との乖離を含む)、価格差、税率格差、そしてなによりも貧富の格差。すなわち人びとの生活の格差なのであり、およそ国と国とを隔てる『格差』のあるところ、その間隙を衝いてマネーの利益チャンスは無限に広がっていく。」
「私が考えるのは、もう一度、貨幣を実際になされた仕事やものと対応する価値として位置づけるべきだということです。」
「現在多いな利を得ているのは、非良心的な行動をする人たちで、(中略) 短期的利潤のために、土地を破壊するような行動が利を得るのです。四年に一度は畑を休ませ、化学肥料を使わず、自然の水利を使ってという責任感の強い農夫は経済的に不利になるのです。つまり、非良心的な行動が褒美を受け、良心的に行動すると経済的に破滅するのがいまの経済システムです。この経済システムは、それ自体が非倫理的です。(中略)
重要なポイントは、パン屋でパンを買う購入代金としてのお金と、株式取引所で扱われる資本としてのお金は、二つの異なる種類のお金であるという認識です。」
「(前略) お金には (中略) 交換手段としての機能 (中略) 財産や資産の機能 (中略) 資本の機能 (中略) 現代の通過は、まったく違う機能を、同時にもたされているのです。」
「成長とは投資のことなのです。(中略) 何を生産するか、という企業目的に多くの出資をすべきです。」
「このまま利子が膨れあがっていくとしたら計算上、遅かれ早かれ、だいたいは二世代後に、経済的な破滅か、地球環境の崩壊かのいずれかへと突きあたります。それが根本問題です。」
「いま、アメリカでは、人口の1%が、その他の99%よりも多くを所有しています。」
「(前略) 私たちの支払うすべての物価に利子部分が含まれているのです。商品やサービスの提供者は、機械や建物を調達するために銀行に支払いをしなければならないわけで、銀行への支払い部分が物価に含まれているのです。あるいは、投入した自分の資本を、銀行やその他のところに投資した場合に得られたであろう利子が価格に上乗せされます。」
「この金融システムは、これまでのあらゆる戦争よりも、あらゆる環境の困窮よりも、あらゆる自然の災害よりも、多くの死と貧困と問題を生み出しています。(中略) なぜなら、数学的に不可能であることと実際的な必要との間で、折り合いのつかない食い違いが折り合わされているからです。」
「実はモノの価格には、ほぼその25%、利子が含まれているといわれています。(中略) これに企業が生産活動をする際に負担する土地やビルなどの賃料が加わると、なんと価格の33%を占めるそうです。」
「人は一つのお金をつくったつもりでいますが、実は二つ、創造してしまいました。交換の役に立ち、これを促進し経済の血液の役目をするお金が一つ。もう一つは値打ちを減らさず、価値を保蔵し、場合によっては貸し付けて値打ちを増やすもの。(中略) これらは経済的に見れば両立は不可能です。公的なものでありながら、私的な占有者に私的な料金請求を許すようなものだからです。」
「(前略) もしお金がマイナス利子のシステムのもとにおかれるならば、社会が実現した富はなるだけ長期的に価値が維持されるようなものに投資されるということです。これとは対照的に、プラスの利子の場合には、より短期の利益をあげるものへの投資が優勢になります。」
たくさん引用してしまった。どんな経済書よりも刺激的。このドイツの児童文学作家は経済に対する考え方を作品の中に潜り込ませているらしい。『モモ』や『果てしない物語』を、そういうつもりでもう一度読んでみたい。
(ことしの本棚 第40回 針谷和昌)http://booklog.jp/users/hariya
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