ことしの本棚31『ビジネスの倫理学』

『ビジネスの倫理学』(梅津光弘/丸善)
 

 
慶応義塾大学商学部准教授・梅津先生の授業は面白い。幸運なことに僕は一昨年、1度だけ先生の授業を受けたことがある。硬軟取り混ぜた語り口が心地よく、1回だけの授業では内容はほんのさわり程度なんだと思うが、それでもビジネス、会社と倫理の関連性に興味がわいた。
 
この本は、「ビジネスはつまるところ金儲けである」というビジネスの価値基準と「人間の行為における善悪」を扱う倫理の価値基準とを掛け合わせたところにビジネスの倫理学が成立する分野がある、という話から始まる。
 
この二つの価値基準を交差させると四つの象限が現れ、「いいことをやって儲かる」「いいことをやるけれど儲からない」「悪いことをやって儲かる」「悪いことをやって儲からない」というケースに分かれる。最後のケースを先生は「これほど不合理なビジネスはなかろう」と書いているが、先ずここで僕は爆笑し、以降、その雰囲気をキープしたまま読み続けることになる。
 
とはいえ、内容は必ずしも笑える話ばかりではなく、逆に真面目な話で埋め尽くされている。後半には学生4人がそれぞれのケースに対して様々な意見を語り合う展開もあって、誰とは言わない(もしかしたら4人とも先生がそれぞれの人格になりきって書いているのかもしれない)が、そのうちの1人は横にいたら首を絞めたくなる位(笑)僕にとって話が通じない人。そこまで思わされるのは、先生の話の展開が巧みであり、かつ分かりやすいからなのだと思う。
 
最初の話に戻るが、「悪いことをやって儲からない」というのはお話にならないが、「いいことをやって儲からない」のと「悪いことをやって儲かる」というのは、どちらがいいのか、かなり考えさせられる部分である。もちろん、悪いこと、の中に法律に触れるようなことがあれば論外だが、いいか悪いかはっきりしないこともある。
 
また、いいことをやっても儲からなければ、それでもいいというのは、経営者の自己満足と言われてもやむを得ない。儲かる、という意味は莫大な儲けということでなく、それなりに利益を上げる、という意味だと僕は捉えてここで使っているが、儲からない仕事をやること自体、“会社”というものの目的に反していると言っていい。
 
この微妙なバランスを考えるのがビジネスの倫理学だと思う。つまりこれはビジネスを実践しながら、学び続けることのできる学問ではないだろうか。そういうことを先生は問い掛けてくれた気がする。
 
ちなみに先生は、僕の中学の時の野球部の1つ後輩で、つまり2年間一緒にボールを追い掛けた仲間である。そんな先生の授業を受けることが、また著書を読むことが出来て、僕は幸せだと思う。そしてさらに、それを元に学び続けることが出来そうで、さらなる幸せに巡り会えそうな気もしている。
  
ことしの本棚 第31回 針谷和昌)

hariya  2011年3月27日|ブログ