「今年の3冊 」河本敏光
『論語と算盤』(渋沢栄一/守屋淳 訳/ちくま新書)
今年、論語を研究しようと仲間数名で集まる論語会を始めたが、ちょうど期を同じくして、論語と算盤の現代語訳が出た。旧版と異なり、誰が読んでもわかりやすい。
渋沢栄一は、論語を基盤とした儒教的清廉さで、私利の欲の暴走を許さない。これは、アダムスミスが、道徳感情論で、人間のもつ共感力が、利己心の暴走を許さず、社会の秩序を保つと言ってるのに通じると思った。この清廉さは、リーマンショックをもたらした現代資本主義のGreedyを戒めるお手本となるだろう。
旧財閥系が、一家の利益を追求したのに対し、渋沢は私利を追求しなかった。国を富ませる事業に専念したという。驚いたことに、幕末には一橋慶喜に仕え、ノーベル平和賞にも2度ノミネートされたそうだ。しかし、私生活では、數多くの妾をもち、子供は30人以上。最後の子は80才を超えてかららしい。日本資本主義の父と言われる渋沢だが、知れば知るほど、奥深さを感じる次第だ。
『ラーメン二郎に学ぶ経営学』(牧田幸裕/東洋経済新報社)
僕は、ジロリアンではないが、二郎のラーメンは、たまに食べる。学生時代には、一度も食べなかったが、社会人になって、初めて食べたときは、本当に驚いた。麺のボリュームといい、野菜やチャーシューの多さといい、注文の仕方といい、僕にとってウルトラ級の迫力と緊張感があった。
二郎の魅力は、そのボリュームと独特の濃厚な味もさることながら、お店に行くとワクワクドキドキ感を体験できることだと思っている。どうしてワクワクするのだろうと常々思っていたが、経営学の視点から理由の解明に挑戦したのが本書である。
著者自身もジロリアンであることから、並々ならぬ意気込みが感じられる。セグメンテーションとターゲティング、ポジショニング、コアバリュー、チャネル、プ ロモーデョン等について、二郎が語られていく。そして、店主の、お腹をすかせた体育会系の学生に腹一杯食べてもらいたい、という愛情が、二郎という食べ物 を作り上げているという。もちろん、大、小、野菜ましまし、アブラ、カラメ、ニンニク、という独特の店主への注文のしかたにも、うまく言えるだろうかというドキドキ感はあるだろう。
そして、2000年代に入り急成長している二郎には、成長のための多くのヒントがあることは間違いない。著者のチャレンジに感謝したい。
『経済古典は役に立つ』(竹中平蔵/光文社新書)
学生時代、近代経済学のゼミにいたが、経済古典は、あまり読んだ事がなかった。難しいという固定観念があるかもしれない。ただ、古典を読んでみたいという気持ちは、どこかにあったため、タイトルを見て、即座に購入した。
著者は、経済古典は、机上の空論ではなく、目の前の問題解決のために書かれたものだから、その処方は、現代でも役に立つことがある、と強調している。スミスから始まり、マルサス、リカード、マルクス、ケインズ、シュンペーター、ハイエク、フリードマンまで、現実の経済と関係づけ、解決のスキルを求めている。
小泉政権のブレーンであった著者は、市場原理主義者と揶揄されたが、そうではなくて、バランスのとれた考え方をしていることがわかる。それは、「おわりに」に書かれている次の文であきらかになる。“古典に学べ”と言われるが、古典を現実に活かす読み方が問われている時代であることは間違いない。
「経済運営の基本は、スミスの指摘のように、市場の“見えざる手”を活用することである。同時に、ケインズの言うような大胆な政府介入が必要な場合がある。そ してその背後で、つねにイノベーションが必要であり、企業も一国経済も「成功のゆえに失敗する」という教訓を忘れてはならない。また、政府が肥大化するリスクを避けるための絶えざる工夫が必要だ。ハイエク、フリードマン、ブキャナンの警告である。」
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