今年の3冊 (1)

いま、われわれ社団法人の研究テーマである「本」について、多くの方々に推薦される本をリストアップして頂いています。ご自分が無条件で好きな本、専門分野で推薦する本、自著でお薦めする本、そして何よりも若い人々に読んで欲しい本、等々切り口はいろいろありますが、ぜひ皆に読んで欲しい本というのが共通のコンセプトです。

いろいろな方々が時間を掛けて選んで下さるのを待ちながら、人にお願いしているばかりでなく、今年読んだ本の中から良かったものを、われわれも書いてみよう、ということになりました。

ちょうど新聞各紙でも今年売れた本、読まれた本などの特集が目立つ年末です。書いてみるとそういうリストには入っていない本が並んで、売れているかどうかに左右されずに、僕らは本を読んでいることがわかりました。それが良いことかそうでないのかはよくわかりませんが、少なくとも時代に大きく流されてはいないことがわかって、ちょっと嬉しくなりました。

「今年の3冊」針谷和昌

『世界を、こんなふうに見てごらん』(日高敏隆/集英社

タイトルが素敵。著者の優しさと柔らかさが伝わってくる。この著者の本を読むと、子どものときの虫が好きだった頃の気持ちに瞬間的に戻ることができる。「生物多様性はなぜ大事なのですかと聞かれる。(…) あらゆるいきものにはそれぞれに生きる理由があるから」。こういう著者の優しさで、全体が貫かれている。穏やかな優しさ。いまの世の中に少ない貴重なリズムが、本全体に詰まっている。


本題から逸れるが、この本は、これまで僕が“タイトルが秀逸だと思った本”のベスト3に入る。他の2冊は
人間を幸福にしない日本というシステム』(カレル・ヴァン・ウォルフレン/新潮OH!文庫)、そして『そうか、もう君はいないのか』(城山三郎/新潮文庫)。タイトルに騙されたと思って買っても、決して騙されなかった3冊である。

『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(広瀬隆/集英社新書)




タイトル通り、世界では二酸化炭素温暖化説は既に崩壊しているという話。逆に、二酸化炭素温暖化説こそが危険だと説く。説得力があり、ググッとこの説に傾きかけたところで読んだのが、
『武器なき“環境”戦争』(池上彰・手嶋龍一/角川SSC新書)

広瀬隆をはじめとする「地球温暖化懐疑論」を、全面的に受け入れるかどうかは、さらにいろいろと吟味すべきとしている。今をときめく池上彰とMr.インテリジェンス の手嶋龍一に言われると、どっちを信じればいいんだろう?と宙ぶらりんになってしまう。

広瀬説で割り切って振り切れないところが、アル・ゴアが気がついた地球環境問題の使い勝手の良さなのではないだろうか。僕にとって、地球温暖化の勉強は、来年に持ち越しとなった

『BORN TO RUN』(クリストファー・マクドゥーガル/近藤隆文 訳/NHK出版)



人間は、長い距離を動物よりも走ることが出来て、それが生き残るための能力だったという。そして
ランニングシューズは怪我のもと、裸足がいちばん、それをランニングシューズブームの仕掛人と呼ばれる某メーカーも気がついているという衝撃的な話。

副題に「走るために生まれた」とあるが、マラソンブームでこれだけ走る人が増えたのには、潜在的な人類としての記憶のなせる技では?と考えさせられる。未知のスーパーランナーが登場する発見もあって、人間が持つ力の深さに期待が湧いてくる。来年も、走りながら考えてみよう。

以上、テーマは違えど、どこか“自然”に関わる3冊です。都会にいる時間が圧倒的に長いので、自然と自然を選ぶのでしょうか

hariya  2010年12月28日|ブログ