大谷翔平はミミクリ?

スポーツは競技者がプレーするもの。プレー、つまり遊ぶということ。スポーツを考える上で「遊びとは何か?」を知りたくなって、『ホモ・ルーデンス』(ヨハン・ホイジンガ/里見元一郎 訳/講談社学術文庫)、『遊びと人間』(ロジェ・カイヨワ/多田同太郎, 塚崎幹夫訳/講談社学術文庫)の2冊を読んだ。

『ホモ・ルーデンス』を受けて『遊びと人間』を著したカイヨワは、遊びの要素は競争(アゴン/試合,競技)、偶然(アレア/サイコロ,賭け)、模擬(ミミクリ/真似,模倣,擬態)、眩暈(イリンクス/渦巻)の4つに区分され、そのいずれかの役割が優位を占めていると述べている。

イリンクスをもう少し詳しく言うと、「急速な回転や落下運動によって、自分の内部に器官の混乱と惑乱の状態を生じさせて遊ぶ」ということ。これはまさに、東京オリンピックから注目され始めた“アーバンスポーツ”に当て嵌まるものだと思う。

そう思いついた数日後、KONAMI野球ゲームのアンバサダー就任にあたっての、大谷翔平のコメントを新聞で見つけた。「練習したものが返ってくるという意味では、ゲームも現実も大雑把に言えば同じ」「ゲームの中の選手を自分で育てることもすごく好きだったので、今は自分の体を使って同じようなことをやっている感じですかね。自分の育成ゲームみたいな感覚というか」(※1)。そうすると大谷のスポーツの楽しみ方は、ミミクリなのではないか。

これまで長い間、スポーツは圧倒的にアゴンの世界で行われてきたと思う。試合に勝つ、大会で優勝することを目標とする選手たち。それが近年、勝つことよりもチャレンジする姿を賞賛するライバルを含めたスケートボード選手たち(※2)や、ベーブルース以来103年振りの2桁勝利&2桁本塁打達成の直前で、「もはや得るものはない」(※3)として残り試合に登板せず、9勝&46本塁打でシーズンを終えた21年MLBの大谷選手などが出て来た。

スポーツに対する長い間の価値観が大きく変わって来ている時代を、我々は今生きているのではないだろうか。

(針谷和昌)

※1:24.1.16 日刊スポーツ
※2:東京オリンピック2020のスケートボード女子のシーン
※3:当時のエンゼルス・マドン監督談「ここ2試合の登板を力強い投球で締めた。もはや得るものはない。本人とも話し合った」(21.9.30中日スポーツ 東京中日スポーツ)

hariya  2024年1月22日|ブログ