サッカー 本の宇宙 vol.27『サッカーを100倍楽しむための審判入門』

『サッカーを100倍楽しむための審判入門』(松崎康弘/講談社)

著者の松崎さんは日本サッカー協会の審判委員長。その松崎さんが本の中で、審判のミスジャッジをはっきりと「ミス」と指摘していている。ある意味、厳しさと、また、潔さを感じる。

松崎さんは、良い審判例、悪い審判例を、この本で幾つも具体的に紹介しているのだが、それは「良いものは良い、悪いものは悪いときちんと言えることが、本物のサッカー文化であり、スポーツ文化だと思う」という考え方に基づいてのことだそうだ。

「審判は環境のひとつで、天候やピッチコンディションと一緒である。『良いグラウンドだったから、良い試合ができたね』と言うのと同じように、『良い審判だったから、良い試合ができたね』と言われてもいいのではないだろうか」

この言葉も深い。草スポーツをやっていると、審判の善し悪しで本当に試合が面白くなったりつまらなくなったりする。だから良かった審判に巡り会えた時には、僕は試合後に思わず「ジャッジ良かったです」と話し掛けてしまうのだが、なかなか声を掛ける機会は少ない。だからいい審判に出会った日には、大げさでなくその日いちにちを幸せな気分で過ごせるし、もっと言えば「スポーツをやっていて良かったな」と実感できる。それぐらい審判というのは、プレーヤーに対して影響力があると思う。

Jリーグの試合では、主審は1試合に250回の判断をして、40回笛を吹いているという。ハードワークである。そして日本には、そんなハードワークを厭わない審判という肩書きを持った人が20万人以上いて、この数はダントツの世界一らしい。そんな日本人審判の特徴は、優しすぎてメンタルに弱い部分があると、松崎さんは書いている。そのメンタルを強くするために、イングランドからウィルキーさんというレフリーインストラクターを招いたのだそうだ。

「メンタルを強くするためにはどうしたらいいんですか?」

ストレートに松崎さんに訊いてみると、ストレートな答えが返ってきた。「コミュニケー ション」。何かあっても逃げないで、相手の目を見て、コミュニケーションを取る。その積み重ねが、メンタルの強さを生み出す、ということである。

つい先日も、松崎さんはカフェにやって来てくれた。ワールドカップへ行く前に、カフェでトークショーをやっ てくれた西村雄一主審、相楽亨副審、韓国の Joeng Hae Sang 副審は、今大会すでに3試合の笛を吹いているが、その出来や今後のことが話題になった。松崎さんは冷静にこう話した。

「彼らはとても良くやっていて、ドイツ vs. イングランド戦(幻のゴール)、アルゼンチン vs.メキシコ戦(オフサイドの見逃し)があったので、さらに彼らが今後の試合で吹く可能性が高くなった」

思い返せばカフェでのトークショーのとき、相楽副審は「日本が勝ち上がっていけばいくほど、僕らはその試合や関連する試合を担当できないので、出番が少なくなる可能性がある。けれども日本代表にはひとつでも多く勝ってほしい。“強い国の審判”という見方をしてもらえるので、日本代表の活躍は僕らにとっても嬉しいこと」と語っていた。

残念ながら日本はベスト16で敗退したが、これからもピッチに立つ可能性は、彼ら日韓合同のレフェリーチームに残されている。日本は、チームも良かったけれど、審判もいい。そんな評判になりそうな、今回のワールドカップである。

(文・社団法人 本の宇宙)

hariya  2010年6月30日|データベース, ブログ