前回の東京オリンピック1964は会場で観たのか観なかったのか、記憶が定かでない。よく覚えていないということは、たぶん観ていないのではないかと思うけれど、マラソンを沿道から観たと一緒にいたはずの幼い頃の友達は言う。お爺ちゃんが遊びに来て一緒にTVを観ていて、2度と日本ではないかもしれないからよく観ておけ、というようなことを言ったのだけはよく覚えている。
そこから次は32年後に飛ぶ。仕事で関わりを持ったビーチバレーボールが初めて正式競技となり、日本から3チーム出場するということで応援にアトランタへ行った。次のシドニーへも行った。この時もビーチバレーボール中心だったけれど、サッカーもマラソンもソフトボールも観た。アトランタとシドニーの間の長野冬季五輪は、アイスホッケーを観に行って、カナダのウエイン・グレツキーを観ることができた。その後も北京へやはりビーチバレーボールの応援で行った。
そんな経験からもスポーツに関わっているという仕事柄からも、6年後に東京でオリンピックが行われるということで、良いことはあっても悪いことはあまり思い浮かばない。「2020東京五輪決定万歳」一色の世の中で、僕も同じように喜んでいた。そんな中、僕がよく読む著者、まぁまぁ読む著者、たまに読む著者の3人が、「異議を唱える」本を出した。
『街場の五輪論』(内田樹 小田嶋隆 平川克美/朝日新聞出版)
東京五輪開会式会場になるという新国立競技場の建築計画には、異議を唱える建築家がいたりして、それはそれでなるほどと思うのだけれど、東京オリンピック開催自体にいま異議を唱えるにはかなりの勇気がいることだろう。でもオジさん3人は平気でそれをやって、いま現在の日本の問題点を浮き彫りにしているという感じである。スポーツに限らず。
著者のひとり内田樹は巻頭で、「そのようなことが語られることに対して抑圧が働いている」という事実の方が重く、「これぐらいのことは言っても大丈夫なんだな」という感想を持ってもらえれば「炭鉱のカナリア」役を担った甲斐はある、という。「お・も・て・な・し」は「フジヤマ、サムライ、ゲイシャガールのライン」という話、あるいは「マスコミは…祭りでいうところのテキヤでしょう。露天商みたいなもんじゃないですか。露天商が祭りの開催に反対するわけないですよ」という3人での話を読んで、読んだ瞬間は笑えるのだけれど、時間が経つにつれて、じゃあ日本をわかりやすくプレゼンするのに何が好いか?あるいは露天商以外の選択肢が今のマスメディアにあるのか?等々かなり考え込まされる。
「時代の趨勢は、夢をどんどん散らばらせる方向に向かっています。それはある種の自然過程だと思う。だから、そのバラバラの夢をひとつに繋ぐものがお金ということになる。金があれば、なんでもできる。だから、金を儲けることがみんなの、同じ夢なんだという逆説的なことになっているわけです。」「今回の招致成功を大きな文脈で考えると…国内問題を隠蔽するため、国民の関心を逸らすための「パンとサーカス」の政略の一部だということだよ。」…いまほどお金や経済第一と考える世の中は過去になかったという指摘は、内田樹の別の著書にもある。
スポーツに関係している自分の仕事柄、五輪が6年後に東京へやってくるのは喜ぶべきことである。大いに喜ぶべきことである。ただし手放しで喜んでいてばかり良いのですか?とこの本は問い掛けてくる。良い機会である。この本を読み尽くし、考え尽くして、6年後に向けてスタートしなければと思う。仲間たちと勉強会など開きたいなと、珍しく思うのは、ふつうは1人で考え1人で答えを出すのだけれど、1人で考えていたらとてもとても答えに近づきすらしない難しい問題だと思うからである。
(日々本 第333回 針谷和昌)
そんなことを考えている間に、ソチ五輪が開催された。時差の関係でなかなか応援し難い大会だったにも関わらず、日本でもかなり盛り上がった冬季五輪だったと思う。そのソチ五輪が終わった直後のスポーツ新聞に、「張りぼて五輪」反面教師に、というソチ五輪の運営についての短い記事があったのだけれど、とてつもないことが書いてあった。「…会場にあるゴミ箱は、まったく分別されていない。開催が進むにつれて、ホテルなどの建物は所々、崩れ始めている。新しくつくった道路には陥没さえ見られる。五輪期間中とは思えない閑散とした街並み。…」ゴミ箱の話や街並みの話にはさまれているので、サラッとつい見逃してしまいそうになるのだけれど、いや、待てよ、ホテルが崩れ、道が陥没?これ1面記事にしてもおかしくない大変な内容じゃないか?そうしない不思議と、それをこんなに目立たなく書くということへの不思議。ソチもメディアも、どうなってるんだろう??
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