『日本人はなぜ存在するか』(與那覇潤/集英社インターナショナル)
再起性…再起性…再起性…再起的…再起的…この本には「再起性」「再起的」という単語が、僕の数えたところでは、102回も出てくる。これだけ出てくるのは普通でないけれど、そんなことをわざわざ数える自分がもっと普通でなさそうなのはさて置いておいて、とにかくふだんあまり使わない「再起」という言葉が印象的で、この本のキーワードがこの2つの単語であることは間違いない。
さてこの「再起性」という言葉の意味は何だろう?筆者は「認識と現実のあいだでループ現象が生じることを、社会学の用語で「再起性(reflexivity)」と言います」と書いている。たくさんの例が挙げられているが、以下はこの文章の直前に出て来た3例。
―太陽自体が赤いから、夕焼けが赤く見えるのでなく、私たちの色覚がそれを赤いものとして認識するから、真っ赤な夕焼けという現象が存在する
―「ここで日本人と言っていりのは、日本国籍保有者のことだ」と定義するから、(その話題が続くあいだだけ)日本人とは「日本億席保有者」の意味になる
―たとえ心理学者の実験によって反証されようとも、「日本人は集団主義的だ」という通念があり、それを踏まえて個々の日本人が行動し続けるかぎりにおいて、私たちの社会は「集団主義的」であり続ける
この本はとてもわかりやすい。そして実はこの本の前に初めて読んだこの著者の本は、僕の知識がまったく追いつかずにとても難解だった。
『日本の起源』(東島誠 與那覇潤/太田出版)
対談本だけれど専門的過ぎて難しい。よくこの本を投げ出さなかったし、さらにもう1冊読んでみようとよく思ったと思う。われながら。この1979年生まれ、東大教養学部超域文化科学科、同大学院総合文化研究科卒で、現在、愛知県立大学日本文化学部歴史文化学科准教授である著者に魅力があったのか?
そうやって考えると思い当たることがある。この数ヶ月で初回を含め数回しか会っていないけれど“通じ合える”と思えた知人が、「今度こういうのやります」と教えてくれたのがこの著者の講演会だった。僕はそれに何かが重なっていて行けなかったのだけれど、あの人があんなに嬉しそうな顔で言うこの人はどんな人なんだ?というのが、2冊読んだ最大の動機だったと思う。
そうやって新しい“読む対象となる人”が増えた。“通じ合える人”が増えたことも、“読む対象となる人”が増えたことも、幸せなことである。考えてみれば、“本”を読むということを通じて、嫌な思いをしたことが今までいっさいないと思う。それはなぜだろうか?能動的な行為だからだろうか?しばし考えてみたいと思う。
(日々本 第315回 針谷和昌)
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