『13 まだ科学で解けない13の謎』(マイケル・ブルックス/楡井浩一 訳/草思社)の「死」の章を電車の中で読んでいたら、なぜか車内アナウンスの車掌の声が鮮明に聞こえ、心に引っかかってきた。
「ご乗車になりましたら車内の中程までお進みください。ドアを閉めます」
文字にして書いてみると、ごくふつうの案内。電車が込んで来た時によく聞くフレーズだ。でもこの時、明らかに車掌の声にはちょっとした“怒り”が含まれていた。混んでるんだから、もっとどんどん中に入っていってください。電車遅れているし、さらに遅れてしまうじゃないですか…みたいな気持ちがこもっているように感じた。
僕は本を読んでいる時、文字を目で追うだけでなく、口には出さないけれど心の中で音読している。そうすると、読み方にもいろいろなパターンが出て来るし、会話の部分はさまざまな口調になっている筈だ。そしてそのトーンは、文章の内容に左右されるとともに、きっとその時の自分の心境にも大きく影響されているのではないか。
そういうことにハッと気がついて、つまり、読書って自分の心を読んでいる部分もあるんだなぁ、と思った訳である。これ、自分の心を読んでいる、と自覚するかしないかは大きな違いで、いつも冷静にいる必要はないけれど、自分の感情がなぜか高ぶっていて、あるいは喜怒哀楽のある方向へ偏りつつあって、その状況を知ることで、その感情の原因は何だろう?と考えることができる。そうすると、不要な不安とか不満とかが、少なくなっていくのではないだろうか。
車掌のアナウンスから読書の奥深さに行き着いて、何だか考え過ぎが読書を大変なもの、進まないものにしてしまいそうな気もする。読みたいものはたくさんあるから、そこはあまり意識せず、なるべくフラットな心で読んでみる、ぐらいが良いのかもしれない。
(日々本 第309回 針谷和昌)
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