『スポーツ・インテリジェンス』(和久貴洋/NHK出版新書)
少し前までは、同じ競技団体の中でも、現場と研究者との間が乖離しているという声を聞いたものだけれど、時代は移り変わり、日本のスポーツ科学そしてスポーツ・インテリジェンスは世界でもかなり先の方を走っているらしい。
同じ団体内を超えて、競技の枠も超えて、オリンピック競技をバックアップするスポーツ・インテリジェンスのセクションが12年前に国立スポーツ科学センター内に出来たことが、昨年のロンドンオリンピックの日本選手団の飛躍に繋がっている、そして「チームジャパン」という言葉は単なる掛け声ではなく、実質を伴っているということが、この本から伝わってくる。
まず主要国には“プライオリティスポーツ”があるという話が面白い。中米露英豪加の6ヶ国しか書かれていないが、僕が主に関係しているスポーツでは、ビーチバレー=米、体操=中米露、新体操=露、サッカー/バレー/トランポリン=無し、である。
インフォメーションとインテリジェンスは、行動を前提とするかどうかで分かれ、そのインテリジェンスにはこんな種類があるという。
オシント(公開情報)、ヒューミント(人的情報)、イミント(画像情報)、マシント(測定情報)、シギント(通信情報)、テキント(技術情報)
これらを著者は、日本の外交や防衛の世界のインテリジェンスを支えてきた人々から学んでいる。
孫崎享(元外務省国際情報局長)、小谷賢(防衛省防衛研究所)、大森義夫(元内閣情報調査室室長)などの名前が出てくるが、参考にした彼らの著書も紹介されている。
『情報と外交』(孫崎享/PHP研究所)
『日本のインテリジェンス機関』(大森義夫/文春新書)
スポーツと言えども“インテリジェンス”という分野なので、どうしても国や政府というちょっと堅いイメージがつきまとうし、実際、著者は国の機関に勤務している訳であるが、初めてオリンピックのスタッフとなったソルトレイクシティの選手村で「自分は本当に役に立っているのだろうか」と悩んだ逸話が、著者への信頼感を生み出している。
(日々本 第305回 針谷和昌)
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