日々本 其の二百九十八「ブータン」

『ブータンで本当の幸せについて考えてみました。「足るを知る」と経済成長は両立するのだろうか?』(本林靖久+髙橋孝郎/阪急コミュニケーションズ)

今の日本で「経済」を重要視すればするほど、原発再稼働という意見に繋がります。「経済」第一優先は果たして正しいのでしょうか?そうやっていろいろな本を読みながらエネルギー問題を考えていくと、ブータンに行き着きました。サブタイトル―「足るを知る」と経済成長は両立するのだろうか?―まさにこの問題です。

ブータンは GNH (Gross National Happiness) を世界で最初に唱えた国。経済と宗教のバランスを取りその両立を目指す国です。GNHの目標は「ブータン国民一人一人が、ブータン人として生きることを誇りに思い、自分の人生に充足感をもつこと」。キーワードは「充足感」です。「持続的な真の幸福は、他人の苦しみの上には存在しえず、他人に尽くし、自然と調和して暮らし、天から授かった知恵と我々自身の心の真の美しさを実現してはじめて手にすることができる。」ということです。

ブータンが掲げる GNH には4本の柱があります。「1 公平で持続可能な社会経済開発」「2 自然環境保全」「3 伝統文化の保護と振興」「4 良い統治」。それらのバランスの取れた包括的な成長を、国家目標としています。さらに「GNH指標」として9つの重点領域にわたり幸福を調査しているそうです。「1 心の健康」「2 健康」「3 時間の使い方」「4 教育」「5 文化の多様性」「6 良い統治」「7 コミュニティの活力」「8 環境保全・生物多様性」「9 生活水準」。

そんな GNH の可能性について、ヒントに溢れた記述があります。ブータンGNH委員会カルマ・チティーム長官の言葉です。

「GNHに民間企業が果たせる役割は大きいと思います。物質的な豊かさを提供することについて、ビジネスは十分すぎるほどの役割を果たしてきましたが、GNHが重視する精神的な豊かさについては、まだまだその貢献は大きくありません。逆にそれがビジネスチャンスを生み出していると言えます。『フェイスブック』がこれだけ世界に流行したのは、『友人や家族との交流』という、人々が根本的に求めていることに価値を提供したからです」

ブータンでは墓がなく、殆どの骨を川に流し、一部を砕いて粘土と混ぜて、ツァツァと呼ぶ小さな塔にして、風通しの良いところに置く。そしてヒマラヤからの風「宇宙の息」に流され、死者の魂があの世とこの世の境界の中で消えていくように、やがてすべてなくなるそうです。ブータンに行って、ブータンの風に吹かれてみたいなぁ。

日々本 第298回 針谷和昌)

hariya  2013年9月16日|ブログ