『原発の正しい「やめさせ方」』(石川和男/PHP新書)
本屋で気になるタイトルが目に入ってきたのでパッと手に取ってみると、著者は元官僚=資源エネルギー庁。国の方々あるいは行政としての元専門家は、どんなふうにエネルギー政策の方向性を捉えているのか、勉強するつもりで買ってみた。狙い通り勉強になる部分がある。その一方で、クエスチョンマークが頭を占めるところも幾つかあった。
先ず出てきたのは、核燃料の扱いについて。核燃料の扱いには、使用前にも使用後にも長い時間と膨大なコストがかかる、その費用を誰がどのように捻出するのか?原発を即停止した後の使用前核燃料と使用済み核燃料は放置するのか?その具体策を示さなければ、「即停止」という意見は意見になっていないと思う、と著者は書く。
僕が思うには、具体策がいきなり出てくるほど、一般人は詳しくない。それを考えるのが担当官僚であり専門家ではないのか。著者は、だからゆっくりと減らしていきつつ処理していく、ということに繋げたいたいらしいが、使用済みの核燃料の根本的な解決方法は、専門家からも答えが出て来ていない世界中の大きな課題である。その当初からの見切り発車の責任を、即停止論者にすべておっかぶせている感じがする。即停止するしないにかかわらず、使用済み核燃料は既にたくさんある訳で、著者なりのそれこそそれに対する意見が聞きたくなる。
原発の代わりに稼働している火力発電所を見た際の話では、「やはり、稼働から40年もたつ老朽火力を今後も動かし続けるとなると、かなり限界に近いものがありますね」という電力マンの言葉を引用している。原発を止めて火力に頼ればいいってもんじゃないですよ、ということを言いたいらしいが、調べてみると日本の原発56基のうち35年以上経つ原発が15基もあって、話題の大飯原発の3基も34年経っているから、そちらの方はどうなんだろう?と、これも著者に聞いてみたくなる。
さらに中央自動車道笹子トンネルで天井板の崩落事故があり、全国一斉にトンネル点検が行われたが、その影響で日本中の高速道路が全線ストップになったか?ボーイング787の機体の火災事故が起きたけれど、事故原因徹底追及のために787の運行は日本中、世界中でストップされたか?なのになぜ原発だけはダメなのか?そう問い掛ける著者。「サッカーのチームで、一人が足を骨折したからといって、他のメンバーも強制的に病院に収容して縛りつけたりはしません」とも書いている。
原発事故と、サッカーの怪我、トンネル事故、飛行機の事故を同列に扱えるその思考回路はどうなっているのか?この辺りになると、著者に問い掛けるまでもないという気持ちになってきた。『日々本』では、あまりネガティブなことは書かないように、そういうことを書かなければいけなくなる本は、紹介しないようにしてきたので、今回これを載せるべきかずっと悩んだのだけれど、前に紹介したシンポジウムのいきさつもあって載せてみることにした。元官僚の現状の考え方の一端がわかっただけでも良かったかな。
(日々本 第296回 針谷和昌)
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