『きことわ』(朝吹真理子/新潮文庫)
ずっと読んでみたいと思っていた作家の芥川賞作品が文庫になって本屋に積まれていた。解説を入れても134頁。一気に読む。
後半…。夕立。陽。半夏生。水引草。シダ。高木。青桐。葉裏。雲。空。雨。風。葉。土。ミミズ。雨水…。めくるめくようなというか、読んでいて酔ってしまうような僕にとってのクライマックス(だと読んでいて直感した)6行に詰まった自然を表現する言葉の数々。こんな言葉を背景に、時間と人が薄い空気の中を交差しながら話が過去と現在を行ったり来たりする。独特の感覚。
解説・町田康。静かな印象の小説の後に、躍動的な解説。グイグイと引っ張り、本書は官能という言葉の本来の意味での官能小説である、という結論に達する。この解説はとてつもない勢い。同時並行でいま町田康の代表作『告白』(中央公論新社)を読んでいるけれど、ここに同じ町田康が出てきたのは偶然。
高校時代、アサブキという同級生がいた。たぶん著者とは親族。帯の顔が同級生に似ている。なんだか次は突然、予想していないところに朝吹真理子が出てきそうな気がして来た。
(日々本 第292回 針谷和昌)
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