『猫のあしあと』（町田康/講談社文庫）

立川談志あるいは町田康に僕の文体というかテンポが似ているととある出版社の人に言われた、という話を落語好きの後輩にした時に「え！それって、自慢ですか？」と言われて、何だか意味がわからなかった。いゃ、読んだことないのでわからないのだけれど…と返しながら、まったく自慢なんかしていないのに、と心の中で答えていた。そして立川談志に続き、町田康も読んでみた。読んでみてわかった。なるほど、あのセリフは自慢だったなぁ…。泣かされた。著者が可愛がっている猫はたくさんいるが、ゲンゾーという猫が死んだ時の話は、とくに涙なくしては読めない…。

僕の家にも猫が2匹いる。彼女たちを僕は猫っ可愛がりしている。彼女たちと別れる日が来るなんて、ちょっと考えられない。本を読み進めつつそう思いながらボロボロ泣いていると、ニャアと歳上の猫がやってくる。絶妙のタイミングである。餌をあげて、それからこれを書いている。書いている膝の上に、彼女が乗っている。乗っているというか、いつものように、ここは私の空間という感じで占領している。自分の膝の上だけれど、もはや自分のものではない。彼女のものになりきっている。

ということで、著者の世界にすっかりはまり込んでしまった読後感。ドゥマゴ文学賞、野間文芸新人賞、芥川賞、萩原朔太郎賞、川端康成文学賞、谷崎潤一郎賞、野間文芸賞を受賞している著者の小説へと、進んで行こうかな。

（日々本 第278回 針谷和昌）