『“糞袋”の内と外』(石黒浩/朝日新聞出版)
品の良いタイトルではないが中身は至って高品質。朝の個室で読むにはピッタリの本だった。ロボットの研究者の話は面白い。前野隆司教授とも繋がる部分があったりする。この研究者も仏教の「空」という概念に行きつくという。最近僕が関心のある学者の方々の多くが科学系でありながら仏教に辿りつく。仏教おそるべし。
この本では「制約」の話がとても面白い。人は制約によって形作られる。既存の色々な制約、例えば技術者の振る舞い、医者の振る舞いなど、制約を介して人は人を理解している。その制約を崩して、自由になって世の中と一体になって新たな何かを見つける生き方が、形のない人間、専門分野を持たない人間、あらゆる分野に貢献できる人間を創り出す。
とはいえ制約は人間にとって居心地のいいもの。自分が何者かわからず全く制約のない状態というのは自由である一方で不安で孤独。何にでもなれる、どこにも属さないというのは、自分自身の生きる力のみで生きるようなもので、周りや社会がその立場を保証するものではない。従って大抵の人は自分を社会的に位置づけるために制約を好み、自ら制約を作りたがる。
制約された人の立場はその役割がなくなればその人もろとも不要になる。大切なのはその時に次の制約に乗り移れるかどうか。なので研究者は研究者という肩書きで十分、何の研究者だとかどこの学会だとか言う必要なない。
この話を読んで僕は自分のことが少しわかった気がした。僕が人から「自由だね」と言われるのは「制約」しないからなのだ。いろんなことをやるけれど、君は何だ?と聞かれたら、これまでうまく答えられずに、何でも屋です、便利屋です、困った時に声を掛けてもらえればいいなと思っていたりします、なんて答えていたりした。それが良いのか悪いのかと考えていたのだけれど、この本を読んでそれで良いんだと思うことができた。
ロボット研究者、他にどんな方々がいるのだろう。この著者にも、もっと迫ってみたい気がする。
(日々本 第277回 針谷和昌)
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