立川談志あるいは町田康に僕の文体というかテンポが似ているととある出版社の人に言われた。生憎両者とも読んだことがない。それでそれぞれの本を買って来て先ず談志から読んでみた。
『談志楽屋噺』(立川談志/文春文庫)
こんなことを言われなかったら一生読まなかっただろう本だけれど似ているかどうかわからないまま読み進めるうちにグングン引き込まれていく。落語家はアーティスト。自殺したり壊れていったりする落語家の話を次々に読むうちにそう思えてくる。どこかに狂気が宿っている人々。厳しい職業なんだと思う。
子供の頃何度か寄席に行った。親父が好きで家族で行った。いちばん覚えているのは林家三平。とてつもない人気。何を言ってもお客さんは爆笑。そのお客さんをいじるから更に喜ばれる。ある日「そこの坊ちゃん!」と高座から呼ばれた気がした。当時客席の子供は珍しかったのだろうか。あとで家族に聞いたら確かにあてられていたようである。僕はとくにそれに反応して何かした訳ではないがそうやっていじる。それは大人に対しても子供でも変わらない。
他の噺家とは明らかに違う何かがあった。何だろう。動物的と言ったらいいのか。その空間の支配力が強かった。談志は林家三平を「破廉恥」と分類している。「三平さんだけの世界」。
落語は噺だから言葉の世界である。それを超えている。そういう意味で希有な存在だったんだと思う。まだぜんぶを読んでいないが噺家から落語へはまって行くと抜け出ることが不可能に思えてくる。
(日々本 第274回 針谷和昌)
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