『知の逆転』
(ジェームズ・ワトソンほか/吉成真由美 インタビュー・編/NHK出版新書)
この本は最初、本屋の新書コーナーで平積みになっているのをチラッと見掛け、その数日後に買おうとしたら姿を消していて、しばらくしてからまた店頭に現れた時には、“売れている本”コーナーに躍進していた。奥付を見ると第一刷が2012年12月10日で、僕が手に入れた第三刷は2013年1月15日。だから増刷している間、約1ヶ月待ったことになる。
待った割には読まなかった。まえがきと最初のジャレド・ダイヤモンド、この人は『銃・病原菌・鉄』(草思社)で一躍有名になった生物学・生理学・進化生物学・生物地理学・鳥類学・人類生態学者だけれど、何となくインタビュアーとの会話が入ってこないので、途中で諦めた。
「文明の崩壊」ジャレド・ダイヤモンド を皮切りに、「帝国主義の終わり」ノーム・チョムスキー、「柔らかな脳」オリバー・サックス、「なぜ福島にロボットを送れなかったか」マービン・ミンスキー、「サイバー戦線異状あり」トム・レイトン、「人間はロジックより感情に支配される」ジェームズ・ワトソンと、錚々たる人々が続く。帯に「これが未来の設計図だ 現代最高の知性6人が熱く語る」とある。このまま放っておくのも勿体ない気がするし、ケリもつけたい気がして、久々にパラパラとめくってみた。
『レナードの朝』の著者であり、神経学・精神医学者であるオリバー・サックスの、こんな言葉が目に飛び込んで来た。
…今度は、新しいコミュニケーション手段の開発によって、「書く」ことによる表現、あるいは言語そのものが犠牲になるのではないかと心配しています…
現代はネットの発達で、人々が「書く」機会が圧倒的に増えたと思う。例えそれが短い文章だったり、話し言葉だったり、略した言葉だったりしても、それはそれで価値があることだと思う。しかしネットを含めたさらなる発展によって、もう「書く」必要がなくなれば、人は易きに流れて、誰にも止めることができない状態になるだろう。“物”としての本が電子書籍になる以上の危機である。知は何処へ。
(日々本 第272回 針谷和昌)
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