『ワタシの一行 新潮文庫の100冊』(新潮社)
本屋のレジ近くに置いてある文庫本サイズの無料の小冊子。心をつかまれる一行、涙をさそう一行、誰かに語りたくなる一行、一生を変えるような一行…新潮文庫の100冊からあなたの一行に出会おう、ということなのであるが、泣ける本、ヤバい本、恋する本、考える本、痺れる本などの章に分かれて、作家やタレントがそれぞれ心に残る一行を紹介していたりもする。
さすがに読んだことがない本だと、なかなかその一行にピンと来ない。そんな中でも、以下の3つは印象的。
「あなたはそのたった一人になれますか。」「こころ」夏目漱石
「曲り角をまがったさきになにがあるのかは、わからないの。」「赤毛のアン」モンゴメリ
「私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う。」「キッチン」吉本ばなな
この中で読んだことがある本は「こころ」だけだが、どこに出て来たかはすっかり忘れている。読んでいる読んでいないにかかわらず、この前後を読みたいと動かされたこれらの一行は、この小冊子の区分けではいずれも「恋する本」に入っている。だからといって、僕がいま恋愛小説を読みたいのかと言えば、別にそういうわけでもない。僕はこれまで、この本はいい、という感想を持つことはあっても、あの一行が良かった、という感想を持ったことはない。そういう意味で、この特集にまだピンと来ていない。
確か以前、最初の一行、だけ見せて本を売る、という売り方が成功していると新聞等で取り上げられていた気がするが、“どこでも良い一行”はその変形ともいえる。最後の一行も面白そうだけれど(以前、調べた時は最後の一行は意外と淡々とした文章だったりするのだが)、ネタバレっぽくなってしまうという懸念がありそう。
案外、好きなタイトル(題名)、を作家やタレントが推薦するというシンプルな方が、面白いのではないだろうか。読んでいない本でもOK、なぜそのタイトルにその人が惹かれるかを読むだけでも興味をそそられると思う。
(日々本 第265回 針谷和昌)
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