
『塩狩峠』(三浦綾子/新潮文庫)
新しい友人と初めてじっくり話していて、この本が良いという話題になった。なぜ良いか、この本と友人の関係はどうなのか、そういうことをまったく聞かずに、とにかく良いというので読んでみた。初めて読む作家。
一気に読んだ。月並みな表現になるが、面白い。友人に騙されたつもりでというわけではないけれど、きっと騙されないという確信がなぜかあった。幸福と不幸がかわりばんこにやってくるような、波というかうねりが何回もある。どうなるんだろう?という気持ちで、次へ次へと進む。気がついたら終わっていた。
比較的最初の方に、福澤諭吉の話が出てきた。父親が息子に本気で怒り、人には上下はないということを言う場面。こんなところに出てくるんだ、という発見。それから小説を読むということが、昔は少し悪いことだったという話も発見だった。「一般に、小説を読むということは、堕落の第一歩であるかのように思う人間が多い時代であった」とある。
ふだん僕は小説をあまり読まない。面白い小説には身も心も捕われてしまう、という感じがして、読む前に構えてしまうからかもしれない。小説を読むには多くのエネルギーを使う。でもこういう小説を読んだ後は、どんどん読みたくなって、完全に“小説スタンバイ状態”になっている。
新しい友人に次のお薦めの小説は?と訊いてみたら『はちみつとクローバー』『考えない論』という答えが返ってきた。どちらも小説ではない。僕を堕落させないようにという配慮は勿論ない筈なので、なぜ次のお薦めに小説が出てこなかったのか?僕はこの前この友人に『どこから行っても遠い町』(川上弘美/新潮文庫)を推薦しておいた。世の中「本を薦める」という習慣がもっとあっても良いかもしれない。
(日々本 第256回 針谷和昌)
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