其の二百四十八「隠しておく」で触れた『聖痕』(筒井康隆/新潮社)。隠しておくつもりだったけれど、どうにも気になって隠れて読み続けた。隠れてと言っても、仕事への往復の電車の中で読んでいたので、気持ちだけ隠れて読んでいたということである。
隠しておくと決めた時に“つまみ読み”して、どんよりと感じたのは、僕の気分の問題であって、しっかりと読み始めると、ぐんぐん物語に引き込まれていく。時代は昭和から平成そして現在へと移り変わり、とくに昭和の時代の感じがとても懐かしい。そしてどの時代の話にも共通し一貫しているのが、信頼する仲間たちがそれぞれ成長していく姿。そこが何とも心地よい。
後半に向けて、上向きの非線形を描いて、読んでいるこちらの気持ちが盛り上がっていく。読み進めるほどに幸せ感が増幅していく。これは僕が筒井ファンになった決定的作品『俗物図鑑』に共通する心地よさ。やっぱり筒井康隆だ、いや、やっぱりどころじゃなく、この『聖痕』は、『俗物図鑑』『家族八景』に並ぶ傑作である。79歳にしてこの作品。ただただ皆さんに読むことをお薦めする。
(日々本 第254回 針谷和昌)
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