日々本 其の二百四十九「奇跡の脳」

とうとう前野隆司教授とお話しした。大学の後輩のお陰で会うことができて、短い時間だったけれど歩きながら話をした。その興奮冷めやらぬ中、きっかけをつくってくれた後輩と話をしているうちに、教授と話したゾーンの話題となり、ひとしきり僕のゾーン体験を後輩に話した。すると後輩は、スマホで検索してアメリカのある女性の TED での演説を教えてくれた。

ジル・ボルト・テイラー。ハーバード大学で脳神経科学の専門家として活躍していたある朝、彼女は脳卒中に教われ、左脳が機能しない右脳中心の状態の体験を、そしてそこから徐々に復活していく過程、まったく生まれ変わったような自分の考え方を本にしている。

『奇跡の脳』(ジル・ボルト・テイラー/竹内薫 訳/新潮文庫)

彼女の右脳中心の状態が、ゾーンに近いのではないかとのことで後輩が薦めてくれたので、話し合っていたカフェの目の前にある本屋に入って、この本を探して、すぐに買った。そして3日後には読み終え、今度この本をその後輩に貸すことになっている。

脳卒中の最初の日、著者には至福の時が訪れる。肉体の境界がなくなって 自分は流体のようになり、あらゆるエネルギーが一緒に混ざり合っている、言語中枢が自分の名前を言わないので彼女でいる義務はなく自ら招いた諸々の制約に縛られない。左脳の「やる」意識から右脳の「いる」意識へと変わり、知覚できることは今ここにあるものだけで、それがとても美しい…。

その感覚はゾーンに似ている気がするけれど、微妙に違う気もする。ただ、ゾーンに入る時には、きっと右脳が活発に活動しているのではないか思う。そして騒がれてもあまりこれまで左脳・右脳という話に関心を持てなかった僕は、だんぜんその違いに興味が湧いて来た。

それで本棚から『ヴィジュアル版 脳の歴史』(カール・シューノーヴァー/松浦俊輔 訳/河出書房新社)を引っ張り出してきたり、新たに本屋の脳のコーナーで『「左脳・右脳神話」の誤解を解く』(八田武志/DOJIN選書)を見つけて買って来たりした。読書の連鎖は続き、『奇跡の脳』のことはこうやって書いたので、後輩にいつでも貸し出せる状態になった。

日々本 第249回 針谷和昌)

hariya  2013年6月08日|ブログ