日々本 其の二百四十八「隠しておく」

『聖痕』(筒井康隆/新潮社)

新しい本が出たら無条件で買う作家が何人かいる。筒井康隆、金城一紀、亡くなってしまったけれど隆慶一郎…。ある日、本屋にどんと筒井康隆の新刊が山積みなっていたので、やはり無条件で買った。朝日新聞に連載されていた小説だけれど、新聞では読んでいない。買った日の夜、仕事も一段落して読み始めたのであるが…。

僕には無条件で見ることができない種類のTVドラマがある。それは子どもが大人に苛められる話で、どうしようもない無力さに、僕は持ってい行きどころのない哀しさと、憤りを感じるのである。こういう話にとことん弱い。だからそういう話はなるべく避けるようにしているが…。

何と読み始めてすぐ、この小説にはそういうシーンが出てくるのである。そしてそれは主人公にとって一生背負わなければならない心身ともに大きな傷…。それがわかった時点で僕は読み進めることをストップした。さて、どうするか…。無理して読み進めても、きっと楽しくない。“つんどく”(積ん読)の更に一歩も二歩も進めた“かくしとく”ことにするのか。

タブーを破って、つまみ読みしてみた。どこかに光明が見えれば、読み進めてみよう。まさに小説を読むということで言えば禁じ手の、最後の一行も読んでみた。なんだかどんよりしていて、光は見えて来ない。

いずれにせよそんなにこれから多くは出ないだろう著者の作品のひとつだから、将来読むこともあるかもしれない。そういう意味で本棚のどこかに紛れ込ませておこうかと思う。今はもっと楽しそうな本が、僕の前に列をなして並んでいる。

日々本 第248回 針谷和昌)

hariya  2013年6月06日|ブログ