『バガボンド 35』(井上雄彦/講談社)
昼過ぎに本屋で見かけて、思いのほか静かに積んであるので、わざわざレジで新刊かどうかを確認した。店員はわざわざレジを離れ、遠くにあるパソコンでたぶんネットで確認してくれて、「昨日出ました」とのこと。昨日も本屋へ行ったけれど見過ごしていた。昨日はもっと大々的にディスプレーされていたとも思えないので、まぁこれが一般書の世界の王様(村上春樹)と漫画の世界の神様(井上雄彦)の違いなのだろうか(自分の価値観とは違う)。この日は一時売り切れていた村上春樹の新刊も、再び山積みにされていた。
宮本武蔵の顔や動きはもちろんのこと、河原に流れる水、岩、河原沿いの草、樹、雨、土、そして樹々の画が魅力的。僕はとくに草の描き方を真似したいと思った。もはやストーリーより、あるいは武蔵や他の登場人物の台詞よりも、武蔵の動きの描写が焦点で、武蔵の動きに合わせてこちらの心も動いて行くという感じ。詩のような漫画と言ったら良いのだろうか。佐々木小次郎との巌流島の戦いがいつか出て来るのだろうけれど、その時はいっさい台詞なしに、2人の動きだけを見せてほしいなと思う。2人の動きに心を委ねている時間は、それこそ川の流れを見ているような時間になるのではないか。
『ちいさこべえ いち』(望月ミネタロウ/小学館)
バガボンド最新号を買った日の夜、ご飯を食べてから別のちょっと個性的な本屋へ行った。そこで見つけたのがこの漫画。これも出たばかりだけれど、普通の本屋では気がつかなかった。1日に別々の本屋で別々の時間に1冊ずつ漫画を買ったのは、おそらく初めて。そういう“漫画の日”。
この作者の爆発力は『ドラゴンヘッド』(望月峯太郎/講談社)で充分にわかっているつもりなので、静かなシーンから始まっているようだけれど、先が楽しみである。まだ12ページ目まで。ぜんぶ読んだら、また書きます。
(日々本 第234回 針谷和昌)
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