日々本 其の二百二十三「アナリスト」

『伸びる人のデータの読み方、強い組織のデータの使い方 ―全日本女子バレーボールチーム・アナリストが教える情報戦略』(渡辺啓太/日本文芸社)

著者は「プロバレーボールアナリスト」! 何がいちばん驚いたかって、この肩書き。バレーボールの分析家がプロになれるのだ、という驚き。つまり、それで稼げる世の中になったんだなぁという驚きである。でも、たぶん、この「プロ」というのは職人としてのレベルに関して言っていることではないか、と思う。本人のプライドというか。いずれにせよ、素晴らしい。

監督との連携によるアナリストの優れた仕事ぶりは、いろいろな部分で参考になる。眞鍋政義監督が出したリクエストは、例えばこんなことだったそうだ。

・ブラジルやアメリカなど、世界トップチームのブロックが2枚完全にそろうまで何秒かかるのか?

・日本がディグ(スパイクレシーブ)をミスして失点した数

・アタック効果率(「アタック決定本数」―「被ブロック数(ブロックされてしまった数)」―「アタックミス本数」÷「アタック総打数」)

・サイドアウト率(「相手チームのサーブから始まるラリーでの自チームの得点数」÷「相手チームのサーブ数」)

僕はそれらに加えて、外側に情報網を張り巡らせているかの体制づくりに興味が湧いた。

「…日本バレーボール協会では、リサーチャーに近い存在として、数人の翻訳者と契約をしている。私はこの方たちに、海外に関する「こういう情報がほしい」という大まかなテーマを提示する。現在、英語、イタリア語、ロシア語、中国語が堪能な方たちが、それぞれの視点でリサーチし、私のところへ情報を上げてくれるのだ。…個々の翻訳者が「この情報はバレーボール界に役立ちそうだな」…というものを探し出して訳し、専用のウェブサイトに投稿する。翻訳者たちが集めてくれた情報を私がチェックし、全日本女子チームだけでなく、Vリーグの監督、ジュニアやユース、ユニバの監督、コーチ、スタッフなど、バレーボールの強化に携わる方々に配信し、共有する。…」

なるほど、さらに拡大した“民活”を行って、日本中からそして世界中から情報が集まってくるような形ができそうだなと、別の競技へ流用できるヒントをもらった。

選手たちに話す時に、「…一番気をつけているのは、最初に話す内容の流れをザッと示すことだ。…どういう内容を、どういう構成、順序で話すのかを伝える。そして、大枠から話を始めて、徐々に細かい内容に入っていく。…」というところも、太~い線で印をつけた。僕が選手たちに話す、という機会はほとんどないけれど、このことは他の場合にも流用できる。

まったくもって、面白い職業が生まれてきたものだと思う。この分野で“プロ”を追求して行ける著者は、きっと今、面白くてたまらないのではないだろうか。

日々本 第223回 針谷和昌)

hariya  2013年4月09日|ブログ