『新宿で85年、本を売るということ』(永江朗/メディアファクトリー新書)
「紀伊國屋書店 新宿本店 その歴史と矜持」というサブタイトル、「たかが本屋されど本屋」というコピーが表紙にある。田辺茂一が1927年に始めた本屋。いまや巨大老舗書店である。前にも書いたけれど、会社の近く、自宅の近くにいずれも紀伊國屋があるので、本店ではないけれど僕が最も利用する本屋でもある。
新宿本店にはホール(劇場)もあるし画廊もある。総合文化ビルと言ってもいいその象徴がホールなのであるが、このホールには個人的な思い出がある。雑誌『広告批評』の主催だったかそうでなかったか。ずいぶん前のことだけれど、イッセー尾形の一人芝居を見に行った。酔っぱらったあと夜の街のビルとビルの間に挟まって出られなくなった男を演じるイッセー尾形を覚えている。
この時、最後に来場者プレゼントがあり、どちらかというとクジが当たる方なので、何だか当たる気がしていたら、本当にイッセー尾形の芝居のビデオが当たった。それをステージ下まで行って、本人から手渡してもらい、かなり嬉しかったことを覚えている。もしかしたらビルの間に挟まる男はこのビデオで見たのかもしれない。
さて本題に。紀伊國屋書店紀伊國屋と丸善がライバル関係にあることも初めて知ったけれど、そのライバル丸善は、明治維新の時に福沢諭吉が弟子の早矢仕有的につくらせたのが始まりだそうだ。読み返してみると、ラインを引いてあるのはその部分だけ。
全編ほとんどが田辺茂一物語で、祖父が外に女をつくって帰って来ず、祖母が孫の茂一に敵を取ってくれと頼んでほどなく亡くなったという強烈な話の印象が強すぎて、他に印すところがあまりないのである。何せ著者は、敵を取るために祖父の財産を文化的活動に使い尽くしたと推測しているのだから、激しい話である。
特筆すべきは『永江朗さんと歩く 紀伊國屋書店 新宿本店マップ』という「特別ふろく」が付いていて、各階の俯瞰図とどこにどんなコーナーがあるか紹介されている。これは他の上下に伸びる大規模書店でも、あるいは図書館でも使えるアイデア。他のところも真似をしてくれたら、グッと本屋や図書館が使いやすくなると思う。
(日々本 第217回 針谷和昌)
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