
『日本の文脈』(内田樹 中沢新一/角川書店)
オッサンがさらに歳をとってくると、オッサンだかオバサンだかわからない、という状態になるけれど、いつまでもオッサンでいたいと僕なんかは思う。なのにこの2人は“オバサン化”を誇らしげに語る。そういう点で太刀打ちできないなぁと思う。そのオバサン2人の尽きることない知的な対談。
「…心が命じてからだが動くんじゃなくて、からだがあることをしたことによって心のありようが変わる。からだが動くと心が変わる…双方向的な関係… 」(内田)
「…教室のかたちって、何世紀も変わってない…「よくわからない決まりごと」…には何か集団の存立に深くかかわる人間についての知がある…」(内田)
「…人類の経済活動の起源にあるのは…そのへんに転がっていた、なんだかわけのわからないものを「自分あての贈り物だ」と感じたことなんです…沈黙交易を起動した最初の交易者の名乗りと同じもの…」(内田)
「…交換の最も原初的なかたちはキャッチボールだと思うんです。キャッチボールというのは、ボールのやりとりをしてるだけで、何一つ価値を生み出さない。でも、僕たちは飽きずにこのやりとりを繰り返すことができる。いったい何がそうさせているのか。このゲームを成り立たせている本質は、ぎりぎりまで削ぎ落としてみると、「私はあなたがいないとゲームができない」というメッセージの贈り合いなんです。もっと強く言えば、「I can’t live without you (私はあなたがいないと生きられない)」という言葉を一球投げるごとに相手に贈っている。交換がめざしている最終的な言葉というのもそれと同じだと思うんです。「私はあたなに存在してほしいと願っている」。交換の場において、交換する人々はたがいに「あなたにはいつまでも生きていてほしい (わなたがいないと、私は交換を続けることができないから)」という言葉を贈り合っているわけです。経済活動の起源にあるのは、この祝福の言葉だと僕は思っています…僕は「祝福を贈るもの (homobenedictus)」というのも、人間の定義に採用してよいんじゃないかと思います…」(内田)
「…bricoleur (器用人) とは、くろうととはちがって、ありあわせの道具材料を用いて自分の手でものを作る人のことをいう..」(注/レヴィ=ストロース『野生の思考』)
「…同じ世代の学生ばかりが集まっているよりも、いろんな世代の、いろんなバックグラウンドを持った、いろんなタイプの人が集まって一緒に学ぶほうが生産的な場所になるだろうと思うんです…」(中沢)
「…丸山眞男が『日本文化のかくれた形』(岩波現代文庫)で言っていたことですけれど、日本人の基本的な態度というのは「きょろきょろする」ことなんだそうです…」(中沢)
「…重農主義(フィジオクラシー)…十八世紀のフランスに生まれた経済学思想…人間の生産や経済の活動を、自然(フィシス)の秩序とサイクルに合わせるという考え方…」(中沢)
「…人間が自分の限界を超えるような働きをするのは、夢中になっているときだけです…」(内田)
「…ユダヤ教の聖典であるタルムードは「増殖する書物」なんです…ユダヤ人の枠組みを絶えず超えていくことができる人間をユダヤ人として認定する…」(内田)
「…ユダヤ人が能力を発揮しやすい学問が、学問の王道になっているんだということに気がついた…」(中沢)
「…医療、教育、宗教といった分野は、従来なかなか商業活動が入ってこなかったんです。なぜかというと、根本が贈与なんで、ビジネスが入ってきたら「濡れ手で粟」なわけですよね…」(内田)
「…買い手と売り手が対等でないものをビジネスにしてはいけない…」(平川克美)
「…不機嫌をツールにしてその場を支配することを覚えたりする…」(釈徹宗)
「…どんな時代でも人々は道の条件を生きて、それに適応している。いつでもそうなんです。これからどうなるかわかっていて安心できた時代なんて一度もないですよ。いつだって未知の環境に向かって創造的に適応するだけです。いずれ遠からずヨーロッパの国は全部日本と同じように少子高齢化社会を迎える…」(内田)
「…フランスでコート・ダジュールとかビアリッツとか、海辺のリゾートが流行するのは、十九世紀からですね…」(中沢)
「…武士の心得は「用のないところへ行かない」「ケンカを売られても買わない」…」(内田)
たくさん、抜き出して忘れないようにしておかなければいけない、と思える部分がある。野球の根本に思考を巡らせている最中に「キャッチボール」の記述に出会ったし、キョロキョロする日本人はサッカーが得意だと思うし、もう1人加わった鼎談の中にも貴重な言葉があるし、そもそもなぜ少子高齢化になったのか本質的なところをもう一度考えてみたくなったし、ヨーロッパでなぜビーチバレーが受けるのかのヒントになりそうなことが語られてもいるし…。
最後に、内田樹が「小中学校の先生に勧める八冊の本」というアンケートに答えて書いたと言う部分を抜き書きしてみる。いつか読まねば。
『共産党宣言』(マルクス)
『プロティスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(マックス・ヴェーバー)
『悲しき熱帯』(レヴィ・ストロース)
『シーシュポスの神話』(アルベール・カミュ)
『福翁自伝』(福沢諭吉)
『孔子伝』(白川静)
『アメリカのデモクラシー』(トクヴィル)
『精神分析入門』(フロイト)
(日々本 第216回 針谷和昌)
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