『何者』(朝井リョウ/新潮社)
「第148回 直木賞受賞作!」(=帯コピー)は、ライブハウスの場面から始まる。ステージ上の学生バンドと、客席のサークルの後輩たちとのやりとりに、「…内輪の空気を出されると、正直、こちらとしてはちょっと冷める。…」という主人公の独白。ふだん僕が何かイベント的な活動を行う時に、最も気をつけてしているポイントのひとつが、開始2ページ目にして出て来て、物語に簡単に引き込まれてしまう。
そういう細かい心理描写に、twitter の文面もからませながら、話は進む。読んでいきながらずっと「イタイなぁ」と感じる。自分にも遠い昔、人の反応を気にして一喜一憂する時があったよなぁと思うけれど、何となくそれとも違っていて、これほど細かいところを気にしなくていいのに、とも思う。そしてここに出てくる就活生たちの心理が、いまの時代の若者たちを代表しているとすれば、保守的な世の中で育った彼らを痛々しく思う。さらに僕もそんな社会の雰囲気をつくっている大人のひとりでもあるのだから、申し訳ないなとも思う。
読了した後、この本当はまったく脈絡もない『評価と贈与の経済学』(内田樹 岡田斗司夫FREEex/徳間ポケット)を読み始める。そうするとすぐに、いまの若者の心理を、岡田氏が滔々と語っている。「…ネット社会だから失敗っていうのが許されない。なんでかっていうと失敗はブログの記録に残って生涯指摘されるからです。この恐怖の記録社会に彼らは生きているんですよ。…」。岡田氏の言うそんな「完全記録時代」が、若者のイタサの源だとすれば、僕らが雰囲気をつくっているなんていうのはおこがましくて、もっと大きな時代の流れにその根源があることになる。
いまの時代の学生でなくて良かった、生まれてくるのが35-40年早くて良かった、と呑気に思うところもあるけれど、では彼らの大変さをどうしたら緩和できるだろうかと思うと、すぐに答えは出て来ない。まるで申し合わせたように、でも偶然『何者』と繋がっていた『評価と贈与の経済学』は、まだ1/5ほど読んだだけなので、これから答えのヒントだけでも出て来るといいなぁと、期待しながら読み進めている。
(日々本 第206回 針谷和昌)
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
---|---|---|---|---|---|---|
« 3月 | ||||||
1 | ||||||
2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 |
23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 |
30 | 31 |