『三国志 一 桃園の巻』(吉川英治/新潮文庫)
「三国志が好き」と女性に言われた。「それなら僕も読まなければ」「いま読まないでいつ読むんだろう?」と自問自答してみる。そういう時に限って、新聞で『三国志』全10巻発刊の第一弾として、第1・2巻の2冊が出る、という新刊案内の広告を目にする。絶妙のタイミング。
好きだと言ったのは、とあるトップアスリートの母親。トップアスリートのことを聞く機会があり、その話の中に、息子が三国志が好きだという話が出て来た。初耳である。あまりそういうことを言わない選手でもある。その選手を理解することに少しでも役に立つのなら、そう思って読み始めた。
ずっと話が繋がっている。こちらのシーンからあちらのシーンへ、あるいは時代を前後した話、そういうものがまったくなくて、ちゃんと時間を追って話が進んでいく。だからわかりやすい。登場人物は中国人で名前が漢字とは言え、外国人には違いないので、なかなか外国人の登場人物の名前が覚えられない僕にとって、助かる部分である。
僕が好きな作家のひとりの筒井康隆の、最も好きな作品が『俗物図鑑』(新潮文庫)。現代日本の108人の一芸に秀でながらも通常の社会からちょっとはみ出ている人たちが、力を合わせて戦うお話。それに通じるところがありそうな予感がある。でも『俗物図鑑』は現代版『水滸伝』とも言われているから、ちょっと違うのかなぁ。全10巻読み通せばその答えも出て来るだろうけれど、トップアスリートと「三国志談義」をした方が、早そうである。さて、どうやって切り出そうか。
(日々本 第205回 針谷和昌)
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