日々本 其の百九十五「幅允孝」

『本の声を聴け』(高瀬毅/文藝春秋)を読み終えました。そして読んでいる最中に、幅允孝がブックディレクションした何ヶ所かを実際に見て回りました。それで感じたことは、松岡正剛の松丸本舗が重厚感溢れる図書館的な展開だったとすると、幅允孝のビューティーアポセカリーや Tokyo’s Tokyo はブックカフェ的な展開だということ。

前者が“脳”のイメージであれば後者は“身体”のイメージ。“アカデミック”と“ポップ”。“エディトリアル”と“アート”。どちらも良いですし、選ぶ人の個性が本棚には如実に出るなぁと感じました。逆に本棚に個性を出せる人が優れたブックディレクターだと言うこともできます。いずれ松岡正剛、幅允孝、その他のブックディレクターの「競作本棚」というイベントをやってみたら面白いなと思います。本の宇宙も末席に加わらせてもらって。

以下に挙げるのは、この本を読んでいくうちに僕が▽マークとともに「幅流」と書いた部分です。8ヶ所あります。「幅流」であるけれど、これらの殆どは幅本人の言葉ではなく、関係した発注者や一緒に仕事をした人々の言葉です。ブックディレクションという仕事を世の中に知らしめ、かつブックディレクター本人のファンを増やしていく幅允孝。この“先駆者”の仕事を充分に意識して、本の宇宙も存分に活動していきたいと思います。

「本好きが往々にして陥りやすい偏った選書でなく、多くの人がさまざまなテーマに関心を持てるようなポピュラリティーを持った水準で、専門書からコミックまで厚め、それぞれの棚で一つの世界観をつくっていく」

「…押しつけがましさがなく、とても気持ちが良かったんです。ゆるーく、本を薦めてもらっている空間の感じ…」

「…編集からは編集しか生まれない…でも自分の体験と本を結びつけていくことをすれば、お客さんに伝わるようなきがします…」

「幅君の選書は、いい意味で俗っぽいんですね」

「…本をチョイスして、かなり大胆に既存の検索システムとは違う方法で、アクセスしやすいようにつなぐこと…それはあまたある制作者の中から、この人のこの部分を見せたいと考えて展覧会を組織するのととてもよく似ています」

「重厚な棚だとセグメントのタイトルを柔らかく。ポップな棚では、漢字を使った硬い物にするんです」

「…その本をどう読むかは読者の自由ですから。だから、まず一冊の本をどう選び、どう差し出したら、手に取る気になるのか?それを丁寧に、脇をしめて、慮りながらやっていくしかない…結局、誰かにとって特別な一冊になるような本を丁寧に積み重ねていくというのが、僕にとっては一番誠実なやり方…」

「…幅の編集方法は「落差のデザイン」…」

日々本 第195回 針谷和昌)

hariya  2013年2月10日|ブログ