『ゴルフのメンタルトレーニング』(デビッド・グラハム/白石豊 訳/ちくま文庫)
1992年に単行本が出て、2012年に文庫化。この20年間、単行本が売れ続けていたということだろうか。文庫化されて平積みになっているのがパッと目に入り、この本に出会えた。
極限の集中状態「ゾーン」について多くがさかれている。これほどまともに「ゾーン」を取り上げている本は、僕が知るところでは他に『インナーゲーム』(ティモシー ボンド・ガルウェイ/日刊スポーツ出版社)ぐらいしか思い当たらない。そんな中、「ゾーン」のひとつの別名が「バブル」だということを始めて知った。「フロー」そして「オーバードライブ」など、同じ状態を指す言葉は幾つかあって、泡と消えてしまう点はまさしく「バブル」だけれど、あの状態は宇宙に通じているような、もうちょっと崇高なイメージじゃないかなぁと思う。
巻頭、ゴルフもテニスも“インターバルスポーツ”であり、テニスは試合の70%以上の時間をプレーしていないし、ゴルフは何と全時間の1%しかプレーしていない、という話から始まる。卓越したメンタル・タフネスが要求されるのがゴルフなので、ゾーンへの意識が高いのだとも言えるし、『インナーゲーム』も“インターバルスポーツ”であるテニスのコーチが著した本である。
「ゴルフは、今日行われている種々のスポーツの中でも、もっとも難しいスポーツではないだろうか。…ゴルフには、ゴルファーの感情のバランスをばらばらに壊してしまう要素がある。…ゴルフは時間のかかるスポーツである…自分のリズムを保つ…ラウンドの間中、ずっと集中し続けるものではない…スロープレーにどう対処するか…ゴルフは社交の場か、それとも勝負か?…」(p58-112)
そう、ゴルフは難しい。なぜなら、長い時間をかけて、一緒に回る人はもちろん、前の組の人、後ろの組の人のペースを気にしつつ、適切なコミュニケーションを取りながらコースを回っていかなければならない。自分のリズムを保つことはとても難しく、誰と勝負しているのかわからなくなってくる。
ゴルフは自分との戦いが面白いという人が多い。でも僕は上に書いたことをやるのに精一杯で、とてもじゃないけれど自分との戦いに集中できない。なので、やっていても、周りに気を遣っているうちにそれこそばらばらになって、ちっとも楽しくないのだ。大学を卒業してから数年やってみたけれど、確かハワイでアメリカのプロビーチバレー選手たちとラウンドしたのを最後に、いっさいプレーしなくなった。
閑話休題。ゾーンに戻ると、著者は「ゾーン状態に入るための11の要素」を挙げている。(p166-221)
1 沈着冷静
2 肉体的なリラクセーション
3 恐れのない心
4 エネルギー
5 楽天的な態度
6 プレーを楽しむ
7 淡々とプレーする
8 オートマチックなプレー
9 油断のなさ
10 自信
11 コントロール
「筋肉がリラックスしてなめらかであれば、非常にスピーディーでダイナミックに動ける…」(p175)。心のうちが波立っていても、筋肉をリラックスさせることは可能だそうだ。絶えず動き、思考と呼吸をコントロールするのだそうである。
「長い人生の間には、いろいろなことに出くわすものだが、やりたいことを心から楽しみながらやってこそ、素晴らしい成果がもたらされるのである。」(p200)。好きだ、楽しいということが大事だということ。前回の『ネンドノカンド』にも同様の記述があった。
著者は、ジャック・ニクラスがなぜ強いかを分析していて、そこでゾーンの姿を明確に語っている。「ニクラス…なんともいえない威圧感…それは自信、バランス、タフネス、気迫、決断力、集中力などがミックスされたもの…多くのポジティブな精神的要素を同時に働かせることができる。そしてそれこそがゾーンの実態なのである。…」(p224-225)
それらがなければゾーンに入れないが、それらが揃っていても必ずゾーンに入れる訳ではないと僕は思う。なかなかつかみきれないゾーン。永遠の研究課題である。
(日々本 第189回 針谷和昌)
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