『ネンドノカンド』(佐藤オオキ/小学館)
「脱力デザイン論」というサブタイトルがついているけれど、文章も、そこで紹介されている作品も、その通りの脱力デザイン。それでいて、いやそれだからこそ、どれもが魅力的。著者は1977年カナダ生まれ、10歳までカナダで過ごし、早稲田大学の建築を出て、10年前にデザインオフィス nendo を設立。2012年、Wallpaper誌(英)ベストデザイナー賞、世界25ヶ国の ELLE DECOR誌の編集長が選考するベストデザイナー賞を受賞。映画で言えばカンヌ映画祭とアカデミー賞の二冠に匹敵するらしい。
読んでいるうちに刺激を受けてこちらもアイデアが湧き出てくる。その幾つかを本の宇宙で、あるいは仕事で、活かすことが出来たら楽しいだろうなと思う。いつも通り、シャーペン(※)で線を引っ張りながら読んでいたら、「小口」の部分に触れて短い線が…。でも何となくこの本に合っていて、写真はそれを撮ったもの。(※:シャーペンは僕の時代シャープペンと言っていたので、シャーペンと書くことにちょっと気恥ずかしさに近い違和感がありますが…余談でした)
「引き算」「削ぎ落として」「磨いていく」日本人の特性を活かす「素材の美、凝縮の美」という話が出てくる。デザインではないけれど、日本のとくに大元は海外から入って来たものの催事の演出が、どうしてもオリジナルの物真似風になっていて、僕は常々少しばかりの違和感を覚えていた。それに対する方向性を示唆されたような、背中を押されたような気がする。
アイデアを出し惜しみして貯めておくと錆びていってしまうという話も、そして右脳型デザインと左脳型デザインの間を超高速で行き来することでバランスを保つという話も、さらに物事のキワを見つめれば黒と白の境界線にあるグレーゾーンがたくさん見えてくるという話も、はたまた好きこそものの上手なれ、楽しいこと、得意なことをどんどんやる方がクリエイティブな人間は成長するという話も、とっても示唆的である。
作品すべてが好いけれど、あえてこれがいちばんと思う作品は、「scatter shelf」という黒いアクリル板を使った本棚。「グリッド状の棚を3層ずらして接着することで、置かれた本が蜘蛛の巣に絡まって浮いているかのように見えるものです。そして、アクリルの映り込みによって本棚の反対側の景色が万華鏡のように拡散される、という視覚的な効果も特徴です」ということだけれど、本を“その本以上のものに見せる”本棚だと思う。
この本自体に作品の佇まいがある。そしてきっと、読む度に新たな発見がある本なのではないかと思う。見た目からも、中身からも、常に自分の横に置いておきたい本である。
(日々本 第188回 針谷和昌)
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