『八つの小鍋』(村田喜代子/文春文庫)
「村田喜代子傑作短編集」。1986年から2000年までの8篇。解説(池内紀)に「村田喜代子の小説には、おばあさんがよく出てくる」とあるが、まさにその通り。しかもたくさんのおばあさんが1つの小説に出て来たりもする。読んでいるうちにそれが当たり前になってきて、何の違和感もない。逆に巻頭の「熱愛」は若い男が主人公で、こちらの方は著者のイメージとまったく違う世界だと感じる。おばあさん(あるいは女性)小説の名手と言ったら、本人は怒るだろうか。
…彼女はやっぱり十五人の子供を生んでいるのでした。そのうち娘を五人生みましたが、二人は赤ン坊のときに亡くなった。残りの三人が母親の血をしっかり受け継いで、十六人と十八人と二十人とあわせて五十四人の子供を生んだのです…(「蟹女」p309)
こんな突拍子もない話も、本当に昔はあったのでは、ありそうだ、というふうに読み進めてしまう。ここまで書いて思いついた。著者の作品は時代を超えていて、たぶんいつ読んでも良い小説、いつまでも読まれる小説なのではないだろうか。巻頭の「熱愛」は若い男性2人がバイクで出掛ける話だが、どこか山際淳司さんに似た雰囲気があるなと感じたのは、そこにあったんじゃないかと思う。
そう考えると、この人がスポーツを書いたらどうなるんだろうと思う。派手なものにはならないけれど、独特の、本質をついたお話が読めるのではないだろうか。ランナーの話とか、熱狂的な野球ファンの話とか、天才選手と母親の話とか…結構イメージできてきて、我ながら意外性ある良い思いつきではないかと勝手に思ったりしている。
(日々本 第173回 針谷和昌)
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