日々本 其の百六十三「日本ラグビー再燃」

『世界で勝たなければ意味がない 日本ラグビー再燃のシナリオ』(岩渕健輔/NHK出版新書)

1975年生まれの若いGM。去年のラグビーワールドカップの後、新しい日本代表ヘッドコーチとしてエディー・ジョーンズがまず決まり、その後に発表された日本代表ゼネラルマネージャー。ケンブリッジ大学への留学経験、イングランドのプロチームでのプレー経験があり、本場のラグビーそのものそしてラグビー文化の話が、とくに興味深い。

現在ラグビーの世界ランキングトップ3は、ニュージーランド、南アフリカ、オーストラリア。この南半球3ヶ国のトップクラブチームで戦う「スーパー15」と同等のトップリーグが、世界ランキング4位イングランド、5位フランス、6位ウェールズ、7位アイルランド、9位スコットランド、11位イタリアが関わるヨーロッパの3リーグ「プレミアシップ」(イングランド)、「トップ14」(フランス)、「プロ12」(アイルランド、ウェールズ、スコットランド、イタリア)。これらが世界のトップ4リーグだという説明があって、先ずヨーロッパのラグビーの位置づけが、とてもわかり易い。

ケンブリッジ大学で政治哲学を専攻した著者は、ラグビーの世界でパワーバランスを身を以て体験する。…フィットネスやウエイトトレーニングの数値やラグビーのうまさといったことではなく、「信頼とは何か」「力とは何か」「権力とは何か」といったことである。… そして、ケンブリッジのカレッジに入部する時に重要視されるのは、大学時代の成績、語学力、そして「ここで何をしたいか」という願書の内容であるという。

こういうところが、ヨーロッパラグビーの厳しさであり、深さであり、文化であり、そして社会とリンケージしているスポーツの魅力なのではないかと感じる。さらに著者は、日本で長らく言われてきた 教育的側面、文武両道、人間形成が、ラグビーの誇れる部分だと書いている。僕もそれがラグビーの他競技にはない最大の長所だとずっと考えてきた。

だがこの本を読んでいろいろ考えているうちに、段々と意識が変わってきた。“ラグビーの誇れる部分”が、かえってラグビーが持つ本来のプレーの魅力、スポーツとしての魅力に、霞をかけてきたのではないか。グラウンドの上でプレーされること以外に目が行き過ぎていて、スポーツそのものとしてのラグビーの魅力を、日本ではまだちゃんと引き出せてないのではないか。そこを最大限クローズアップする方向に、これからはシフトすべきなのではないだろうか。

“日本ラグビー再燃のシナリオ”というサブタイトルがこの本にはついている。取りようによっては、昔の栄光をもう一度、という感じである。この点ももう一度考えた方が良いのではないかと思う。“再燃”ではなく、“発見”。それぐらいの新しいインパクトがないと、2019年日本開催のアジア初のラグビーワールドカップに向けて、日本人のラグビー熱が盛り上がっていかないように思う。“ラグビーの新しい熱”で、7年後が満たされていることを願う。

日々本 第163回 針谷和昌)

追記)TV観戦していると「○○選手、痛んでます」というアナウンサーのコメントを、サッカーを始めとしてラグビーでもよく耳にするようになった。その度に「選手は野菜ではない」と画面に向かって無力な独り言を言っているのだが、とうとうそれが文章になったものを、この本で初めて読んだ。…誰かが怪我で痛んでいるときにも… 文字になると尚更違和感がある。この流れは止められないのだろうか。(本来は、例えば、誰かが怪我で痛がっているときにも、または、誰かが××を痛めているときにも、じゃないかなぁ)

hariya  2012年12月08日|ブログ