日々本 其の百五十九「K-1」

『平謝り K-1凋落、本当の理由』(谷川貞治/ベースボール・マガジン社)

K-1が出てきて国内で人気となり、やがて世界へ打って出ている姿を見て、日本発の見事なプロスポーツコンテンツが出てきたなぁ、と嬉しくなった。そのK-1に深く関わってきた元プロデューサーが書いた本は、何度か書店で手に取ってみては本棚に戻しということを繰り返しながらも、やっぱりこの歴史的なスポーツの推移を知っておくべきという思いのもと、ついに購入して一気に読んだ。

K-1は、シンプル、ショート、トーナメント、ワールド、見る側にとってわかりやすい要素がすべて揃ってスタートし、K-1をメジャーにしたのはフジテレビの底力なのだと著者は書く。ソフト戦略は、大きくてカッコ良くて強い外国人vs泥臭い日本人。

谷川プロデューサーの信条は「イベントは最初にテレビありき」。投資家や格闘技のイベントをやりたいという人たちは、まずイベントから考える。イベント→いい選手→いいマッチメイク→お客さんが集まる→スポンサーがつく→テレビ局が放送、という流れ。

谷川プロデューサーは、まずテレビに放送してもらうにはどうするか、から考える。テレビをつける→ゴールデンタイムに放送→スポンサーがつく→視聴率のためにTV局が宣伝→お客さんが集まる、という流れ。

そしてマッチメイクは、他局の番組の流れも考えながら、順番を決めていく。さらにいかにお金をかけずにプロモーションするか。イベントの勝負はそこまでで80%決めると言う。そしてイベントになったら最後の最後まで動きまわり、諦めない。

ここで完全に僕の師匠の1人とリンクする。その人は、日本の冠スポーツイベントや、世界のメジャー大会の日本での放映や、アメリカスポーツの公式戦日本開催を行った先駆けなのだけれど、まさに、まずメディアから考え、最後の最後まで諦めなかった人。元TV局営業部長のこの人は、メディアにとってのスポーツの魅力を熟知し、番組とイベントを創っていった。

最後まで諦めないということでも印象深いことがある。3日間あるイベントで、1日目より2日目、2日目より3日目と、会場の広告看板が増えていったこと。イベントの開催中も、彼はスポンサーセールスを進行していたのである。そして特別コートサイド席を突如自ら売り始め、コートサイドに椅子を並べ出すこともあった。一同唖然、ただ見守るのみ。

別のお世話になったある競技団体の役員は、若くしてお亡くなりになる前に「これからどうしていけばいいと思いますか?」と僕が訊くと、「スポーツを大きく育てていくのはTVだよ」と語った。

両者とも、そして谷川プロデューサーも、はじめにTVありき。僕は師匠の元を離れたあと、あえて別の路線をいこうとずっとやってきたが、インターネットが拡張を続ける今、スポーツとTVの関係をもう一度考え、新しいチャレンジをする時代に差し掛かっている気がする。

日々本 第159回 針谷和昌)

hariya  2012年11月30日|ブログ