サッカー 本の宇宙 vol.14『神の苦悩』

前にご紹介した『オシム 勝つ日本』が汚れてしまったので本棚から姿を消し、その分、補充しようということで、同じ本ではなく前から気になっていたオシムに関係する本を購入した。

『オシムの戦術』(千田善/中央公論社)

国際ジャーナリストであり、通訳・翻訳者だった著者は、2006年から約2年半、日本代表オシム監督の通訳を務めた。常にオシムの傍にいて、オシムの言動 と行動を見ていた著者が語るオシムの戦術。オシム監督時代の日本代表チームの成長の軌跡が手に取るようにわかって、いまの代表チームはきっとそれを受け継いでいるだろうという思いが、ワールドカップ大会を直前に控えた現時点での不安感を消してくれる。

『オシムの戦術』は「サッカー 本の宇宙」が出来てから本屋で見かけて、ずーっと気になっていたのだが、なぜかと言えば「監督の通訳の本は面白い」ということが、3年前に体験してわかっていたからだ。

『神の苦悩』(鈴木國弘/講談社)

鹿島アントラーズ時代からジーコの通訳を務め、ドイツワールドカップを共に戦った鈴木通訳が、ワールドカップの翌年に出したこの本で、ジーコのことだいぶ 理解できたし、いろいろと教わった。その中の最たるものが、ジーコが試合前、選手に必ず投げ掛けた言葉についての解説である。

「楽しんでやる」

この言葉は、過去のオリンピックで日本代表選手が使って(サッカーではないが)、大きな問題になったことがある。言った本人にまったく悪気はないのだが、 「死ぬ気で頑張れ」という日本人からすると、「楽しむ」ってことは何事だ、となるのである。ジーコはこの言葉の意図するところを、鹿島時代からずっと言い続けていたそうだ。

「自分がやっていることに深い愛情を持たないと、お客さんには絶対に感動が伝わらない」

なるほど。「自分がやっていることに深い愛情を持ちながらプレーする」ということが「楽しんでやる」ということなのである。もうひとつのジーコのキーワードである「自由」も、「発想の自由」と鈴木さんは解説してくれている。

監督の最も身近にいて、その監督をとことん理解し、ある時は監督になり切って話す。その一方でそれを冷静にみている自分がいる。そんな通訳が記す話は、現場の臨場感と客観性とが調和した、読み応えのある記録になる。

(文・社団法人 本の宇宙)2010.06.09

hariya  2010年6月21日|データベース, ブログ