『「尊重」と「覚悟」を育む スポーツマンシップ立国論』(広瀬一郎/小学館)
このタイトルの後にさらに「日本に求められる人材育成戦略」とある。ある意味、表紙がすべてを語っている。さらに表紙の折り返しには「「尊重」とは、異質な者を理解し、価値を認めること。それを体得させ、理解させることが、スポーツマンシップの神髄です。」とある。今の僕にはここまででも充分かもしれない。
というのは、珍しく小説を読み始めたことは前に書いたが、小説を読む癖がつくと、逆にそれまでよく読んでいた“ためになる”本や文章がなかなか頭に入って来なくなった。著者の広瀬さんの本は、スポーツに携わる人びとにとって教科書的な存在で、僕もほとんどの著作を読んできた。その都度読み込んで、スポーツの見方や考え方を勉強させてもらった。それが今回は読み込めないのである。その理由は著者にはなく、ひとえに自分の中にあると思う。
そういう中で、以下の部分が印象的だった。それは「加藤澤男の見事な尊重」という章。相手に有利な採点によって、血のにじむような努力が評価されるむなしさついて問われた加藤氏が、「それは逆だと思います。電気計時などの冷たいメカニズム、エレクトロニクスで人間の努力がはかられることこそ、私はむなしいと思います。体操は、オリンピック種目の中でも最も人間的な、人間くさい種目です。審判を含めた人間対人間の戦いだからこそ、おもしろくてならないのです」と答えている。
ちょうどいま、今年最後の体操の大きな大会が行われている最中。ここは思い切って、体操の“人間くささ”を、めいっぱい味わってみることにしよう。
(日々本 第147回 針谷和昌)
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