日々本 其の百四十「ベジェルとウル・コーマ」

『都市と都市』(チャイナ・ミエヴィル/日暮雅通 訳/ハヤカワ文庫)


新聞の書評を見て購入してから半年以上が経つ。買ったすぐ後に30頁ほど読んでしばらく置いておいたので、最近再び読み始めた時にはほぼ忘れていて、もう一度いちばん最初から読み直す。

72年ロンドン生まれ、ケンブリッジ大で社会人類学を学んだ作家の六番目の長編。英国SF協会賞長編部門受賞、アーサー・C・クラーク賞受賞、ヒューゴー賞長編部門受賞、世界幻想文学大賞受賞、ローカス賞ファンタジィ長編部門受賞。クラーク賞は3回目で史上初。この実績に目がくらんで読み通した。

地理的にほぼ同居する2つの都市国家、ベジェルとウル・コーマを舞台に警察官が捜査し、両都市を“ブリーチ”する(境界を侵犯する)ことを取り締まる組織ブリーチや第三のオルツィニーという都市が存在すると著した作家が出て来たりしながら、物語の始まりで起きた殺人事件をひもといていく、という物語は、かなり難しい。相当集中して読まないと楽しめない。断続的に電車の中で読む僕のスタイルでは、理解度が低そうだ。

人は見たいと思うことしか見えない、のだとすれば、こういう都市があってもおかしくない。さらに言えば、同じものを見たとしても見る人によって違う訳だから、もともと人というのはそれぞれ別のその人独自の都市に住んでいるのかもしれない。人それぞれの中に人それぞれの世界がある。当たり前のことだけれど、それでいてある一定の社会が保たれているというのは、とてつもないことなのではないかと思えてくる。人はひとりでは成り立たず、集合体として人間がある…そういうこととも繋がっている気がする。その不思議さと、この本の読後感の不思議さとに、どこか共通する(ちょっとポジティブな)ものを感じる。

日々本 第140回 針谷和昌)

hariya  2012年10月21日|ブログ