サッカー 本の宇宙 vol.13『中津江村長奮戦記』

何かの新聞に、中津江村・元村長のコメントが載っていて、日本vs.カメルーン戦では、カメルーンを応援する、その後はもちろん日本を応援する、というようなことが書いてあった。それがなぜなのかは、この本を読めばわかる。

『カメルーンがやってきた 中津江村長奮戦記』(坂本休/宣伝会議)

2002年ワールドカップのキャンプ地として、カメルーン代表チームは大分県日田郡中津江村(現 日田市)を選び、予定より少し遅れて人口約1,360人の村にやって来た。そのことによって、中津江村の人々が変わっていく様子が、このキャンプに関わっ た様々な人々の証言で綴られている。

84もの自治体がキャンプ誘致に名乗りを挙げた。まだ8年前のことなのに、当時のことは記憶の彼方。この本には書かれていないが、別途調べてみると、その中からキャンプ地に決まったのは27ヵ所31自治体だった。

宮城県仙台市(イタリア)、静岡県磐田市(日本)、福島県楢葉町・広野町(Jヴィレッジ)(アルゼンチン)、千葉県千葉市/島根県出雲市(アイルラン ド)、東京都調布市(サウジアラビア)、神奈川県平塚市(ナイジェリア)、新潟県十日町市/富山県富山市(クロアチア)、福井県三国町(メキシコ)、山梨 県富士吉田市/大分県中津江村(現:日田市)(カメルーン)、長野県松本市(パラグアイ)、静岡県御殿場市・裾野市(ウルグアイ)、静岡県清水市(現:静 岡市清水区)(ロシア)、静岡県藤枝市(セネガル)、三重県上野市(現:伊賀市)(南アフリカ)、三重県鈴鹿市(コスタリカ)、兵庫県津名町(現:淡路 市)(イングランド)、奈良県橿原市・新庄町(現:葛城市)・大和高田市/大分県佐伯市 (チュニジア)、和歌山県和歌山市(デンマーク)、鳥取県鳥取市(エクアドル)、岡山県美作町(現:美作市)(スロベニア)、熊本県熊本市(ベルギー)、 宮崎県宮崎市(ドイツ、スウェーデン)、鹿児島県指宿市(フランス)

“キャンプ誘致”とはどんな規模の事業なのか。この本を読むといろいろとわかってくる。

[期間]
中津江村のキャンプ誘致活動は、1999年9月にJAWOC(日本ワールドカップ組織委員会)に書類を提出してから始まった。つまり約3年前からのスタート。

[競合]
中津江村長がイタリア大使館に行くと「あなた方は18番目の候補ですよ」と言われた。どの国もたくさんの候補地の中から、最終的に1~2ヵ所を選んだ模様。

[予算]
当初、選手団の使用するバスと宿泊費、政府団視察の食費・宿泊費など、2,000万円を見込む。年間予算20 億円強の村としては「決して小さな額ではない」が、村議会で支出を決定。
最終的には、チーム関係者滞在費2,500万円、運営費1,200万円を予算計上、さらにJAWOCから交通費・輸送費で100万円、寄付金20万円等を合わせて収入3,932万円、それに対する支出は計3,880万円。

[決め手]
人情と環境の良さ。人々のあたたかい歓迎と、キャンプ地にふさわしい涼しい気候、500~600mの高所というトレーニング環境など。

[誘致費用]
カメルーン大使館に中津江村PRのため村長が東京へ行った旅費と、ジャマイカ、カメルーンの大使と南アフリカの監督が中津江村に視察に来た時の食事代、合わせて約30万円。

[人員]
カメルーン中津江村ベースキャンプ推進本部メンバーは、本部長の坂本村長を筆頭に、全17名。

さて、日本でキャンプを張った国の中で、今回のワールドカップにも出ているのは、イタリア、日本、アルゼンチン、ナイジェリア、メキシコ、カメルーン、パラグアイ、ウルグアイ、南アフリカ、イングランド、デンマーク、スロベニア、ドイツ、フランス。

きっと中津江村=カメルーンのように、それぞれのチームのキャンプ地の人々は、今回の大会でもそれぞれの国を応援しているのだろう。そういうことが、ワー ルドカップ自国開催の、大きな遺産なのだと思う。今回の日本代表はキャンプ地で、あるいは練習場で、地元の人たちとどのようにコミュニケーションをとって いるのだろうか。勝ち負けも大切だが、そこもとても気になるところである。

(文・社団法人 本の宇宙) 2010.06.03

hariya  2010年6月21日|データベース, ブログ