『屍者の帝国』(伊藤計劃×円城塔/河出書房新社)
登場人物が豪華だ。というか様々なキャラクターが錯綜している。『ドラキュラ』(ブラム・ストーカー)の吸血鬼ハンターのヴァン・ヘルシング。『シャーロック・ホームズ』シリーズ(コナン・ドイル)に出てくるホームズの友人ジョン・H・ワトソン。『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー)の三男アクセレイ・クラソートキン。そして実在のナイチンゲールの架空の逸話も。
まだ僕自身は読んでいる途中なのでこのあたりまでしか知らないが、「日本経済新聞」と「朝日新聞」がともに9/23の読書欄で取り上げていて、これからまだ『風と共に去りぬ』(マーガレット・ミッチェル)のレット・バトラーや、チャールズ・ダーウィンも出てくるらしい。
途中まで伊藤が書いて亡くなり、その先を円城が受け継いで書いた小説、ということは読む前から知っていて、だからこそ「そんな受け継ぎ方が小説って出来るんだ」という喜びを含んだ驚きと、それを実行する円城塔という人の底知れない愛情と勇気を想像して買った本である。
伊藤計劃の本は何冊か、円城塔の小説はたぶん1冊しか読んでいないので、正確にはわからないのだけれど、途中まで読んで思うのは、“円城塔が伊藤計劃になりきっている”ということ。伊藤がどこまで書いたのかを知らず、1部を読んでいる途中で「ここいら辺りまでは書いているのかな?」と調べてみたら、何ともっと前の短いプロローグだけが伊藤だということがわかった。
つまり円城塔がやっているのは、僅かな手がかりから全体像をイメージして形にする、というとてつもない作業である。この本を読み終えたら、円城塔のこれまでの作品、そしてこれからの作品を、読むことになると思う。
(日々本 第132回 針谷和昌)
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