『にぎやかな天地』(上)(下)(宮本輝/講談社文庫)
「事実は小説より奇なり」という言葉は嘘だとこの小説を読んで思う。主人公はもとより、家族、友人、知人ら登場人物のそれぞれが、ドラマチックすぎる物語を抱えていて、しかも死が身近な場合が多い。だからといって嘘くさいと感じる間もなく、そのドラマにぐいぐいと引き込まれていってしまう。
途中、何回か目頭が熱くなる。とくに家族、つまり血に関することである。どうして人間は血にまつわることにこんなに心を動かされるのだろうか、と読みながら考えてしまう。人間、人の間、間の始まりは家族…だからだろうか。
この本は「働く物語」の一環として読み始めた。日本の伝統的な発酵食品に携わって働く人びと、そして何よりも本づくりを仕事として働く人たちの物語。改めて「働く物語」は魅力的だ感じる。この路線でさらに読み続けられればと思う。
(日々本 第131回 針谷和昌)
追記)
・読んでからしばらく経って、しきりに思い出すのは、量子が揺れている、という話。「…人間の体は六十兆個から七十兆個の細胞から出来てる…その細胞は分子から成り立ってる…分子は原子から…原子は素粒子から。素粒子は量子から出来てる…量子は…小さな…紐みたいなもん…で、それは常に揺れてる…間断なく振動しつづけてる」(下巻p276-277) ―われわれが出す声も、行う運動も、その振動し続けている中で起きているという感覚は、かなり大切にしたいなと思う。
・もうひとつは「足下を掘れ。そこに泉あり」(下巻p135)という言葉。「深い穴を掘る」というテーマをビーチバレーというスポーツを通じて探求していきたいので、この言葉は追求の先に泉があるという期待を抱かせてくれる。
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