文楽の物語。主人公の若い太夫・健太夫が組むことになった三味線・兎一郎に「長生きすればできる」と言われる。序盤である。終盤にはなにものか(たぶん幽霊というか魂というか)に「生きることだ。生きて生きて行き抜けば、勘平がわかる」と言われる。こちらは終盤である。『仮名手本忠臣蔵』の早野勘平を語る主人公が稽古し続けて疲れて眠っているときにそう話しかけられる。この本では「生きて続ける」ということが、ひとつのテーマになっている。僕は、別の言い方で同じことをアメリカ人に言われたことがある。
誰よりもこのスポーツを知りたいと思い、僕はビーチバレーというスポーツのルーツを訪ねてまわっていた。行き着いた先のひとつが、アメリカ西海岸、サンタモニカビーチクラブという場所。そこにそれまで多人数でやっていたビーチバレーを2人でやろうと思いついてプレーし始めたポール・ジョンソン氏がいた。
僕はジョンソン氏にインタビューし、写真を撮り、対人パスまでした。最後にジョンソン氏が僕に言った。“Never quit!” やめるな、やり続けろと。もちろん、ビーチバレーを……僕は今、彼の言葉を半分守り、半分守っていない。ビーチバレーを周辺から応援する仕事は続けているが、自分でのプレーからはここ2~3年、遠ざかっている。昔の自分と今の自分の何が違うか、それをはっきりと突きつけられた気がした。
ビーチバレーへの熱い気持ちを思い起こしながら、文楽への、あるいは日本の伝統芸能への、新たな興味を膨らませながら、全編読み進んだ。中盤、愛媛県の内子町での恒例行事のシーンが出てくる。内子座。何とこの本を読んでいる間に、この本をプレゼントしてくれた nさんが、内子座に行って来たと写真を送ってくれた。今、熱さのまっただ中の nさん。果たしてどういう方向へ進んでいくのだろう?今度会ったら、僕も nさんに、やめるな、突き進み続けろ、と言ってみたいなと思う。
(日々本 第127回 針谷和昌)
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