『戦後史の正体 1945-2012』(孫崎享/創元社)
何故か表紙にそそられた。戦争を感じさせる写真と太い帯。元外務省・国際情報局長、米国からの圧力、驚いた!などの文字が並ぶ。ある種のセンスと信頼性を表紙から感じて、平積みの中の1冊を取った。
数日後、仕事の関係で、次は君の子供の頃の話を聞きたいと、とあるラガーマンに話しかけると、いろいろ話しちゃって良いですか?竹島問題にも行きますよ、と返ってきた。母親が韓国籍だという。それ偶然だけれど、いま読んでいる本では(竹島も尖閣諸島も北方領土も)アメリカが問題の種を植え付けてきたという話だよ、この本抜群に面白いんだ、と応えると、周りにいた若いラガーマンたちも興味を示し、タイトルや著者を紹介する流れになった。さて何人のラガーマンがこの本を読んでくれるだろうか。
いま内田樹の『街場の文体論』(ミシマ社)を同時に読んでいるけれど、「情理を尽くして語る読み手に対する敬意」ということが書いてある。『街場の読書論』でも書かれていたことだけれど、この『戦後史の正体』も、まさにそれに溢れている本だと思う。新しい知識を植え付けてくれるという良さはもちろんのこと、読み物としてとてつもなく面白い。
冷戦の終結後のシカゴ外交評議会が行った世論調査(1991年)での米国にとっての死活的脅威の圧倒的なトップは「日本の経済力」だった(p312)。1990年時点で世界の金融ベスト10の上位6位まで日本の銀行でベスト10に7行入っていたのが、2009年には9位に1行入っているだけ。
これは1988年に、自己資本比率が8%に達しない銀行は国際業務から撤退しなければならないと決められたBIS規制(バーゼル合意)が最大の要因だそうである。冷戦のために経済的成長をアメリカがバックアップした日本が、冷戦が終わるとアメリカの脅威になり、そこから日本の失われた20年が始まっているということ。この本ではいろいろなことにいちいち納得させられるし、紹介したい話も数限りなくあるが、その中でも書き留めておきたい部分である。
そしてあとがき。戦後の歴代首相を「自主派」(積極的に現状を変えようと米国に働きかけた人たち)、「対米追随派」(米国に従い、その信頼を得ることで国益を最大化しようとした人たち)、「一部抵抗派」(特定の問題について米国からの圧力に抵抗した人たち」と分類している。
「自主派」
重光葵、石橋湛山、芦田圴、岸信介、鳩山一郎、佐藤栄作、田中角栄、福田赳夫、宮澤喜一、細川護煕、鳩山由紀夫
「対米追随派」
吉田茂、池田勇人、三木武夫、中曽根康弘、小泉純一郎、海部俊樹、小渕恵三、森喜朗、安倍晋三、麻生太郎、菅直人、野田佳彦
「一部抵抗派」
鈴木善幸、竹下登、橋本龍太郎、福田康夫
長期政権の吉田茂、池田勇人、中曽根康弘、小泉純一郎はすべて「対米追随派」である。田中角栄、細川護煕、鳩山由紀夫ら「自主派」の首相を担ぎ中国と関係の深い小沢一郎が浮上出来ない大きな理由が、少しわかったような気がする。
(日々本 第124回 針谷和昌)
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