『精神論ぬきの電力入門』(澤昭裕/新潮新書)
原子力、石炭、水力、LNG、石油、揚水、再生可能エネルギーを使って、これまでどういう割合で発電をしているという表は、3.11後、何度も見た。この本にもこの関係の表がいろいろと出てくるのだが、それを眺めていて、使う側の割合というのはあまり見たことがないと気がついた。つまり、官公庁だったり企業だったりあるいは一般生活者だったり、これらがどういう割合で電力を使用している状況なのか、見た記憶がなくて、まったく見当がつかない気がした。
自分でも調べてみたがなかなか良いデータに辿り着かない。こういう時は頼りにしている現役のT大生O君に限る。スイスに行っているO君にフェイスブックで連絡を取ると、すかさず返事が返って来て、確かになかなか見つからない、と書きながらも、適切なデータの在処を教えてくれた。
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2011energyhtml/1-1-1.html
資源エネルギー庁が出している「エネルギー白書2011」。この中に、東電管内、夏期の家庭・大口等の1日の需要が時系列でどのように変わるか、が載っていて、夏期最大電力使用日の需要構造推計にあります、とある。さすがです。それが以下の表。
14時が電力使用のピークだということも初めて知ったけれど、その時点で産業用:1700、業務用:2500、家庭用:1800万kW。思いのほか家庭用が多く、全体の3割を占めている。業務用と産業用の違いがすぐにはわからないが、別の資料を見てみると、業務部門の8業種という項目があって、オフィスビル、卸・小売店、食品スーパー、医療機関、ホテル・旅館、飲食店、学校、製造業とある。なるほど、業務用とはこれらのことで、産業用は企業ということなんだと思う。
家庭用が3割、ピーク時以外だともっと比率が高くなるということは、一般生活における節電によって、電力消費量全体を減らすことが結構出来るということがわかった。もちろん限界はあるだろうけれど、思っていたよりもその比重が大きくて、いざとなれば生活で我慢すればということである。
さてこの本の主旨は、タイトルにもあるように感情ではなく冷静に現実を見つめてこれからのエネルギーを考えなければいけませんよ、ということ。この本を読んでいると、ちぐはぐな政府の対処に対して、電力会社の安定した電力供給を行うという使命感に基づく行動について、読む前に比べて格段に理解度が上がったことは事実である。現時点での太陽光や風力などの再生エネルギーは全電源の1.2%という数字はインパクトがあるし、固定価格買取制度は低所得者に負担がかかり、また新技術開発には繋がらないということもよくわかった。
著者の元通商産業省(現経済産業省)という肩書きからの先入観からか、若干上から目線を感じる部分もあるし、必ず地球温暖化対策の話も出て来て興醒めする部分もある。そういう中で、最もインパクトがあったのはこの部分。東京電力とは何か?震災後初めて東京電力の側から、いろいろと考えさせられた。
しかし現行の原子力損害賠償制度では、東京電力のみが賠償責任を負っているため、万が一東京電力が破綻した場合、被害者は泣き寝入りするしかありません。あくまで国の「援助」は、賠償責任を負うわけではなく、東京電力の賠償を支援するという間接的な立場に過ぎません。国としては、賠償の全責任と全業務を負う立場にある東京電力に破綻されると、賠償の「無限地獄」が自らに覆いかぶさってくるので、絶対に回避しなくてはなりません。(p147)
(日々本 第119回 針谷和昌)
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