『良いトレーニング、無駄なトレーニング』(アレックス・ハッチンソン/児島修 訳/草思社)を読む。
運動による最も重要な効果は脳に生じる変化で、「運動によって脳に血液と成長因子が多く送り込まれることで、記憶力や学習能力、認知力が高まり、老化防止なのにも劇的な効果が見られる」「運動の最中には、脳内でエンドルフィンをはじめとする、気分を高揚させ精神に良い作用をもたらす化学物質が分泌されます」(いずれもP022)とのこと。
『脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方』(ジョン J.レイティwithエリック・ヘイガーマン/野中香方子 訳/日本放送出版協会)にも、勉強前の心拍数を上げる運動が効果的だというアメリカの高校の話が出ていたが、これをバランス良く出来ると“文武両道”が成立するのだろう。後輩であり仲間である友人の父親は、医者でありながらオリンピックに出場しているけれど、まさにこのバランスが絶妙だったのではないか(ご興味のある方は『航跡 <KEIO号>の九人』(比企寿美子/中央公論社)を)。
「乳酸は「筋肉に痛みを感じさせる老廃物」ではなく、筋肉にエネルギーを供給する有用な燃料」(P101)つまり乳酸は悪玉ではなく善玉だという話を、これを読んですぐにラグビーチームの主力選手に話したら知っていた。怪我の治療は日常茶飯事のラグビーは、やはりスポーツ科学・医学の最先端を行っていると改めて実感。
「2009年にアメリカ人がスポーツグッズやフィットネスギアに使ったお金は720億ドル。書籍の購入費の実に約三倍」(p062)ってことだけれど、脳と体のバランスで言えば、アメリカ人は結構アンバランスになってきてるということか。日本はどうだろう?調べてみると、1982年の1世帯あたりの年間書籍費が 13,604円、それが2008年には9,659円と下がってきている(日本著書販促センター websiteより)。一方、スポーツにかけるお金は10年で1世帯あたり 39,577円(三井住友アセットマネジメント websiteより)。ひゃーっ、アメリカよりもバランス悪し。(社)本の宇宙、頑張らねば。
幾つかの例から、1日の中で「午後六時ごろがもっともパフォーマンスが高く」(p116)なるのだそうである。体温がいちばん高くなることがその理由。日本のプロ野球のほとんどの試合が、午後六時プレーボール。偶然かもしれないが、理にかなっている。
「もって生まれた才能よりも、いかに「計画的訓練」に時間をかけたか」(p324)ということが重要で、とある調査では有名交響楽団所属の名演奏家は18歳までに平均7,400時間の計画的訓練を行い、単なるプロの5,300時間、プロを諦めて講師になる人の3,400時間を大幅に上回っている。「計画的訓練とは、単純に動作を繰り返すだけでなく、具体的な目標を定め、パフォーマンスの出来を確認しながら、つねに技術の向上に努めること」(p325)ということで、ただ単に練習を長時間やればいいということではないらしい。この話は『非才! あなたの子どもを勝者にする成功の科学』(マシュー・サイド/山形浩生・守岡桜 訳/柏書房)に通じる。
ここに紹介した本をすべて読んでから子育てすると、オリンピック選手が育つかもしれない。
(日々本 第102回 針谷和昌)
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