
『七夜物語』下(川上弘美/朝日新聞出版)
くちぶえを吹く。うまくいかない。昔はもうちょっと上手かったはずだ。これでは南生君と麦子さんは遥か彼方、さよにも届かない。仄田くんとどっこいどっこい、いや仄田くんよりヘタかもしれない。これではくちぶえ部に入れないではないか。ましてやくちぶえ甲子園など夢のまた夢ではないか。(※南生君と麦子さんは定時制のカッコいい高校生、仄田くんは小学校のクラスメート、さよは主人公)
僕にとってのこの本のクライマックスは突然やって来た。楽の音が渦をまき、台所じゅうに満ちる。誰の姿もなく、すべての命の歌をかなでる者たちがいる。ただ音だけがそこにある。六番目の夜。そこまでに登場した重要なすべての人たちが、その場にいる。なつかしさ、やすらかさ、楽しさ、喜ばしさ。
音楽の魅力がこれほどまでに伝わってくる小説を読んだことがない。自由が丘の駅のベンチで読んでいる時にこのシーンに出くわして、僕は自由が丘のホームを泣きながら歩いた。
くちぶえを吹こう。くちぶえが上手くなりたい。そして、僕なりの「命の歌」を吹いてみたい。誰かに聴かせられるぐらいになったら、今度は誰かと一緒に吹いてみたい。その時はくちぶえが上手い人、手を挙げてくださいね。
(日々本 第96回 針谷和昌)
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