
白熱教室のマイケル・サンデルは、逸話コレクターだった。そう言いたくなるほど、各章のテーマにまつわるエピソードが満載、これでもかと例を挙げて、世の中の問題点を指摘する。いや、指摘するというのは正しくない。例を挙げてこれはどう考える?と読者に問いかけてくる。
『それをお金で買いますか』(マイケル・サンデル/鬼澤忍 訳/早川書房)
すべてが売り物となる社会。刑務所独房格上げ。代理母妊娠代行。移住権。絶滅危惧種を撃つ権利。炭素排出市場。額を広告媒体にする。民間軍事会社の戦闘員。行列代行会社。生命保険賭博。子供が読書する度にお金を払う。医者の予約の転売。ローマ教皇のミサ。社員にお金を払って煙草をやめさせる。健康維持プログラムに参加する従業員への金銭的インセンティブ。結婚式の祝辞代筆。贈物を現金にする。用務員保険。生命保険買取産業(バイアティカル)。死亡賭博(デスプール)。テロの先物市場(実現せず)。ライフセトルメント産業。死亡債。野球選手のサイン。野球の記念ボール。球場の名前(ネーミングライツ)。自家用車に広告。自宅に広告。砂浜の広告型押し。自治体マーケティング(公立学校の飲料等)。地下鉄駅の命名権。公園、自然保護区、遊歩道の命名権。パトカーの広告。消化器への広告。学校の協賛教材。小学校の命名権。
でも、お金で買えないものもある。ノーベル賞。プロ野球のMVP。…あまり次が続かない。逆に著者が好きな野球での、様々な命名権が紹介されている。日本のプロ野球も結構やっていると思っていたが、その遥か上を行く本場アメリカのプロ野球。見習うべきか、見習わざるべきか。最後に著者は語る。
結局のところ市場の問題は、実はわれわれがいかにしてともに生きたいかという問題なのだ。われわれが望むのは、何でも売り物にされる社会だろうか。それとも、市場が称えずお金では買えない道徳的・市民的善というものがあるのだろうか。
何でも買える社会より、買えないものがたくさんある社会の方が、僕には楽しそうに思えるけれど、どうだろう。
(日々本 第93回 針谷和昌)
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