『どんどん沈む日本をそれでも愛せますか?』(内田樹 高橋源一郎/ロッキング・オン)
溜飲が下がる。大いに下がる。でもそれで良いのか?
原発が再稼働の方向へ進んでいる。どうしてそういうことになるのかと憤っているところへ、溜飲を下げる2人+インタビュアー(渋谷陽一)の語り合い。その通り、と言いたくなるところが山ほどある。ガス抜きという言葉があるが、こちらのガスがどんどん抜けていって、溜飲が下がったので安心、となってはいけないとは思うが、でも、とにかくかなりスッキリする。世の中の出来事をわかりやすく語り合っている。
この本は前著『沈む日本を愛せますか?』の続編。雑誌「SHIGT」で連載対談が続いていて、その最近の6回分を順番に並べ、最後に語り下ろしの総括対談がある。時期で言えば、一昨年の冬から今年の春まで。つまり3.11の前から1年後までということである。その間にいろいろなことがあったけれど、語られる視点に安定感がある。
(前略) 同時多発的なシステムの劣化は (中略) 全部一緒だから。国会も行政もメディアも。 (中略) ひとつの治療法で全部治る (後略)。キーワードのひとつは「身体性」っていうこと。生身の個人が固有名でできる範囲内で仕事をするっていうこと。 (後略) <内田 p064-065>
(前略) 要するに企業が肉体化しているオーナー社長となら、仕事が進むわけだよね。 (後略) <渋谷 p066>
個人的に最近の実感として、これからのテーマは“身体”だと思っていたのだが、それとちょっとリンクしていて、ここは気になった部分。
統治者が有権者の知性を信じていないんだよ。<内田 P090>
(前略) 利益供与の政治 (後略) <高橋 p090>
その原点にあるのは、「金さえもらえりゃいいんだろ?」っていう考え方なんだよ。人のことを見下してるんだ。「おまえら、要するに色と欲なんだろ?」っていう感じが、俺はいちばん嫌いなの。子ども手当とか高速道路無料化とかさ (後略) <内田 p090>
いちばんいけないのはさ、さっき言ったみたいに、有権者の知性を低く見積もっていることなんだよ、僕が、石原慎太郎にしても、河村たかしにしても、橋下徹にしても、共感できないのはそこなんだよ。(後略) <内田 p104>
今回の再稼働の議論でのこのままでは電力が足りなくなるという話も、一般の人々の力(節電の努力)を見下している。ここでの話も、企業が大変で金がもらえなくなりますよ、って言いながら見下してるということ。ここは僕がとくに憤りを感じ続けているところでもある。
(前略) 今の事態は、そもそもは、日本近代国家150年のトータルな方針が生んだ結果。(後略) <高橋 p137>
(前略) 日本の脱原発はワシントンのご意向なんだと思う。(後略) <内田 p148>
(前略) 電力会社に広告費なんていらないじゃん、だって。 <渋谷 p160>
一社独占だからね。<内田 p160>
このあたりは溜飲を下げるというより、ふ~む、の連続。
(前略) 優先順位をつけなくちゃいけないんだけど、それができないんだ。はっきりしているんだよ、1番、国土の保全。2番、国民の健康。悪いけど、景況なんかどうだっていいよ。(後略) <内田 p203>
原発問題で、日本の統治者は、国土の保全よりも国民の健康よりも、経済を優先したことがはっきりしたからね。日本人はこれによって深いトラウマを負ったと思う。<内田 p219>
(前略) 「一度上げた生活のレベルを下げられない」って言うんだよ。これには僕も驚いたね。だって、これって1980年代に広告代理店かどこかが言いだしたイデオロギーでしょ。(後略) <内田 p237>
こういう話が続いて息が詰まらないのは、途中「はははは!」と(内田が高橋の話に)ただただ笑う場面が何回か出て来たりするからかもしれない。自ら“おばさん”だと2人とも言っているが、おばさん化したおじさんの話はわかりやすい。僕も適切におばさん化できたらいいなと思う。もうしているかな?。自分ではまだまだだと思うけれど。
(日々本 第91回 針谷和昌)
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