『倍音』(中村明一/春秋社)
「ひとつの音」と思って聞いている中に、さまざまな音が含まれているのです。それらのさまざまな音がどのように含まれているか、によって、音色はつくられるます。音色(音質)をつくっているのが「倍音」なのです。(p8-9)
ということは、ひとつの音に含まれている様々な音が倍音、というこだろうか。
倍音の種類は、大きく二つに分けることができます。ひとつが、「整数次倍音」と呼ばれるものです。基音の振動数に対して整数倍の関係にあります。(中略)もうひとつが「非整数次倍音」と呼ばれるものです。弦がどこかに触れてビリビリとした音を発することがあります。このように整数次倍以外の何かしら不規則な振動により生起する倍音が「非整数次倍音」です。(p11-12)
それで整数次倍音が強い歌手の筆頭が、美空ひばり、郷ひろみ、浜崎あゆみ、松任谷由実。ジョン・レノン、ボブ・ディラン。話し声では黒柳徹子、タモリ。民謡、謡曲、声明、長唄、地唄。竿竹売り、金魚屋、豆腐屋、焼き芋屋。駅のホームの駅員の声。力を抜き、顎を引き、喉を狭くすると簡単に発声することができるという。
非整数次倍音はアフリカ系やジプシーの人たちに多く、ハスキーボイスやウィスパーボイス。楽器ではケーナ、パンパイプ。歌手では森進一、宇多田ヒカル。ロッド・スチュワート、ブルース・スプリングスティーン。明石家さんま、ビートたけし、堺正章。義太夫節、説教節、浪曲。尺八、三味線、琵琶、能管。喉を少し開けて、より多くの呼気を送り込む発声。
こう書いてあるのだが、なーるほど、じゃああの人は整数次で、この楽器は非整数次だな、というところまでなかなか理解というか把握できない。難しい。
日本語の特異な点は、自分にとって重要な言葉には、必ず[非整数次倍音]を入れる、ということです。たとえば、「助けて!」「愛してる!」と言ってみてください。必ず、濁った声か、カサカサした声で発音しているはずです。(中略)[非整数次倍音]こそが、心に残る言葉、ネーミングの重要な因子と言えるのです。(p95-96)
実際に「助けて!」と発声してみて、これがどっちなのか、よく自分ではわからない。詳しくは書かないが、この他にも、“間”の話は個人的にゾーンに繋がっていると感じたし、“振動”の話は達人から聞いた合気道の振動との共通性があるとも感じた。そういうとっかかりの部分が随所にあって、それを突っ込んでいったら面白いだろうなぁとも思う。
全体的に、音楽を聴いているときの、あの気持ちやイメージの広がりが、本になるとななかなか伝わって来ない。これは僕に限ってのことなのかもしれないが、音楽は読むものではなく、やっぱり聴くものなのではないだろうかという感想を持ちながら、なんとかこの本を読み終えた。音楽の本で読破出来たのは、もしかしたらこの本が初めてかもしれない。
(日々本 第86回 針谷和昌)
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