著者名からうっすらと経済関係の人だよなと思い写真を見てみると何度か見た顔。中小企業診断士であり、経済評論家である著者が、おそらく初めてチャレンジした小説(執筆協力・さかき漣 とあってサポート役がいる)。でも既に肩書きには上記に続き、作家と続く。たぶん「経済を説明する小説」だと予測して読んだが、はずれてはいなかった。
『コレキヨの恋文』(三橋貴明/小学館)
大蔵大臣に7度、総理大臣にも就任した高橋是清が、新しい童顔の女性総理と年に1度、満開の桜の木の下で語り合う。「新米女性首相が高橋是清に国民経済を学んだら」というサブタイトルそのものの展開。著者がここで書きたかったことは明快で、1)高橋是清の時代と現代の多くの共通性 2)高橋是清が執った施策は現代にも通用する ということだと思う。
大正バブル崩壊と平成バブル崩壊、関東大震災と阪神・淡路大震災そして東日本大震災、ライオン宰相(濱口雄幸)とライオン首相(小泉純一郎)、昭和金融恐慌と平成金融恐慌、NYウォール街株式大暴落そして世界大恐慌とアメリカ不動産バブル崩壊そしてリーマンショック、嘘つき禮次郎事件(若槻次郎)とウソ菅事件(菅直人)。共通点が山ほどある。そのことを並べるノンフィクションではなく、フィクションにしたところに、著者の工夫がある。
一昨年ぐらいから、僕は高橋是清に関する本を少しずつ読んでいる。これまでは本人の書いたものや評伝だったので、こういうのもちょっと読んでみたくなった訳である。一昨年、仕事でたまたま横浜の三渓園に行って、高橋是清も座ったと言われる椅子に座った時、思いのほか嬉しかったのだけれど、つまり、僕は自分でも意識しないうちに、是清ファンになっていたのを、この時自覚した。
ここまで書いてみて、この時代であれば、司馬遼太郎も書いている筈だと思う。調べてみると、『坂の上の雲』第4巻「遼陽」に、高橋是清の「自分にはいつか強い運が転換して来る」という台詞が出てくるらしい。『坂の上の雲』はまだ読んでいない。これを機に、先ず4巻から行ってみようかなぁ。
(日々本 第79回 針谷和昌)
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